コラム

第42話  お葬式

私は幸福なことに、アメリカでとてもいい人達に恵まれたと思っている。
確かに、辛い経験もしたが、思い起こせばすべての経験が私に何かを教えてくれたような気がしている。私が転校したことは、今まで何度か書かせてもらっているが、転校した先で間借りさせてもらったご家族には、特に良くしてもらったのを覚えている。

私も不義理で、最近はクリスマスカードも送っていない有り様だが、本当に感謝している。彼らも私のことを「Japanese sonだ」と友達に紹介してくれていたし、私も出きる限り彼らの助けをしたりした。本当に信頼できる人達だった。そのご夫婦は年配で、たぶん二人とも70歳近い年齢だったのだと思う。なんせ、ご主人は第2次世界大戦に行かれた方で、戦後駐留軍として横浜に住んでいたことがあると話していたくらいだから下手をすると私なんて孫くらいだ。でも、彼らの一番下の子供は私よりも5歳くらい年下で、かなり高齢で子供をつくったらしいことが分かる。

そのご夫婦は、日本人的に隠居する雰囲気はなく、ご主人は私と同じ大学で趣味も兼ねて勉強していたし、当時最新式の電動タイプライターなんかを買って学校のレポートを書いていたりした。アメリカ人は、本当に人生をエンジョイする人達なのだと、つくづく感心させられた。彼らの2番目の娘は当時すでに結婚をし、5歳の子供がいた。その息子の名前はスティーブン。

車で2~30分のところに住んでいたこともあり、しょっちゅう遊びに来ていた。遊びに来ると、その5歳の子供は私の部屋に遊びに来ては、”Hi! Shima!”と、ドアをノックすることもなしに入ってきて、平気で一時間近く遊んでいった。さすがに、靴のままベットの上を飛び跳ねるのは怒ったが、私も息をハアハアさせながら、一緒に遊んだのを覚えている。(^^;)

私は、あまり女性にはもてなかったが、子供には結構好かれるらしく、どんな年齢の子供とも精神年齢がピッタリあった。(f^^;)庭でテニス遊びをしたり、天気の悪いときには折り紙を作ってやったりして、ときどき英語を話すのが面倒になると、日本語で話したり、ナントもはちゃめちゃな遊びをしていた。(^^) ただ、スティーブンの父親はまともな定職にもつかず、いろいろあったようだが、結局離婚することになった。私もスティーブンのお母さんの相談にちょっとのったりしたが、私のたどたどしい英語でどれだけ理解してくれたか….。(^^;)

でも、気持ちだけは通じていたと思っている。

ちなみに、スティーブンのお母さんはキャリアウーマンで、保険関係の仕事をしていた。離婚してからの方が仕事に熱中することが出来たらしく、すぐに昇格して、車も新車に代わり以前にもまして豊かになったように思えた。私のお世話になったおじさんの話によれば、離婚してから半年ほど過ぎた頃からスティーブンのお母さんに新しいボーイフレンドができたらしい。スティーブンも、そのボーイフレンドと仲が良く、いずれ結婚するのではないかと話してくれた。

おじさんは、非常に面白い人で、娘がまた結婚をすることに対して、本当に金が掛かって仕方がない….。と、喜んでいるのか、悲しんでいるのか分からないコメントをしていた。(f^^;)マ~、私はスティーブンのお父さんのことも知っていたので、ちょっと複雑な気持ちだったが、幸せそうなスティーブンのお母さんの様子を見て、早く幸せになって欲しいと思った。

しかし、それからしばらくして不幸が襲った。

交通事故で、スティーブンも、スティーブンのお母さんも亡くなってしまったのだ。彼氏の車に乗っているときに、相手の車が突っ込んで来たらしい。また、後日分かったことだが、実はお母さんのお腹の中には、赤ちゃんがいたらしく、結局お腹の赤ちゃんも含めて3人の人が死んでしまったのだ….。

当時私は何をしてよいものやら分からず、本当に困惑してしまっていた。
あの靴のままベットでジャンプするスティーブンが幼くして死んでしまったのだから、悲しくないわけがない。お世話になったおじさんやおばさんには、お花を贈り、お悔やみの言葉を述べ、下手な英語で気を落とさないようにと肩を抱いてあげた。私が最も印象に残っているのは、そのお葬式で、別れた旦那が気が狂ったように泣き崩れた様子だ。離婚後、何度も復縁を願うほど、別れた奥さんや子供のことを愛していたらしい。本当にかわいそうだった。人の死とは、とても悲しいことだ。

お葬式の会場から、パトカーの先導で墓地までゆっくりと一列になって車を走らせ、墓地でお祈りをし、冥福を祈った。悲しい出来事ではあったが、私はこの家族に貴重な経験をさせてもらったと思った。

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こんな話の最後に不謹慎な気もするが、それから数ヶ月後、そのおじさんやおばさんには莫大な保険金が支払われた。なんせ、娘は保険会社に勤めていたのだから、かなりの金額らしい。後日、庭にはプールを作り、書斎が欲しいと全長30mほどするトレーラーハウスを購入し、家中リノベーションをし、別荘も購入したと話していた。私は、あまりにもお金の使い方が大胆だったので、なんと言って良いやら分からず、口篭もってしまったのを覚えている。それじゃ!(^^;)

[2000年7月27日発行]