コラム

第74話 ST.ELMO’S FIRE

社会人になって15年以上も過ぎてしまうと、十代から二十代の地を這いずりまくった頃が、とても懐かしく感じることがある。

たとえば異性への思い。
ボロボロになるほど相手のことを想い、居ても立ってもいられない。
人を愛するとは純粋な思いであるが、その反面「独りよがり」な面がある、何とも酷なものだ。

極論を言ってしまえば、人間の基本的な欲の一つである「性欲」から来ているのだが、恋愛感情を抱いてしまうと、相手が純粋無垢の完璧な異性に思えてしまう。そして、必死になって相手の気を引こうと頑張る。

ましてや「性欲」は、他の欲と違い生まれてからず~とあるものではない。知恵が付き、肉体的に完成して初めて表われるものだから、たちが悪い。この感情をどうしたらよいか分からない。

マニュアルがあるわけでも、人が教えてくれる訳でもない。
「縁」のある人とめぐり合うまで、七転八倒していく。
これは相手がいるものだから、時として傷つき、傷つけられる。
それも、加減を知らない若い頃には、それはそれは大変な思いをするものだ。

どうしようもなく苦悩に満ちた日々。
大なり小なり誰しも経験する想いだろう。

悲しいかな私の場合は、毎回体当たりで突っ込んでいき、木っ端微塵になるパターンで、それも再起不能になるほど相手も、自分も傷ついてきた。今でも自分の歩んできた道の真価は分からない。しかし、断言できることは、たとえ誤りがあったとしても、私なりに最善をその場その場でして来たということだ。

たぶん、人生ってそんなものなのだと想う。
一生を掛けて「自分史」築き上げるのが人生なのだろう。

先日、久々にCDショップへ行って『ST.ELMO’S FIRE』のサントラ盤を見つけた、留学中にアメリカで見た映画だ。早速購入した。今、その音楽を聞きながらこのメルマガを書いている。

この映画は、大学を卒業した若者たちが、不器用にそれぞれの道を探していくものなのだが、「未完成」な青春の苦悩がよく表われている。今でもビデオのレンタルショップへ行くとあるので、興味の
ある人は是非見てほしい。

ちなみに、この『ST.ELMO’S FIRE』の意味を辞書で調べると、

n.聖エルモの火:避雷針・船のマストなどに現れるコロナ放電現象.
プログレッシブ英和中辞典  第2版 小学館

とある。何故、この映画のタイトルに『ST.ELMO’S FIRE』が付いているのか、是非考えてみてほしい。(映画の中で、主人公の一人が話しているが….)

私は、留学の目標を一つを「卒業」に置くべきだと考えているが、正直言って夢と希望を持って留学し、必死になって勉強をしても、その「卒業」にまで手が届かない人がいることも事実だ。

怠惰な人にはけして言わないが、心底頑張った人には是非伝えたいことがある。それは、掴むことのできない蜃気楼のような『ST.ELMO’S FIRE』を心に抱いて進み続けることが結局は最も幸せだということ….。

私も、七転八倒して生きていますが、絶対に自分の人生を恥じたりはしたくありません。ボロボロになっても『ST.ELMO’S FIRE』を追い続けて行くだけですから。

[2001年11月8日発行]