
「定時で帰ることは、悪いことですか?」
都内の中堅IT企業。数年前からエンジニア不足を背景に、積極的に外国人エンジニアの採用を始めたそうです。英語での社内コミュニケーションも導入し、社内もだんだん「ダイバーシティ推進」に慣れ始めた頃の出来事。
半年前に入社したインド出身のソフトウェアエンジニアAさんは、とても優秀で、技術力も申し分なく、コードレビューでもいつも「丁寧」「ロジックが明快」と高評価でした。しかし、配属から2か月ほど経った頃、プロジェクトリーダーの間でこんな声が出始めたそうです。
「彼って、いつも定時ピッタリに帰るよね…」
「うん、周りが忙しそうでも手伝おうとしないんだよね。」
「利己主義なのか、文化の違いなのか…」
表立って問題にはならなかったそうですが、「チームの一体感に欠ける」「協調性が不十分」という評判になってしまいました。
ある日、優しい先輩の日本人が、彼をランチに誘い、質問したそうです。
「最近プロジェクト忙しくて、みんな残業しているよね。
でも君は、早く帰るけど、体調でも悪いの?」
Aさんは、はかなり驚いた顔で、
「体調は大丈夫ですよ。仕事はちゃんと終わってるし、追加のタスクも指示されていないから帰るだけです。自分の時間を大切にするのって、悪いことなんですか?」
「もし私の助けを必要としてるなら、もちろん手伝います。だけど、誰も私に手伝って欲しいと言ってきません。私は、どうしたら良いというのですか?」
先輩の日本人はハッとしたそうです。そしてこのやりとりを、チームミーティングの中でそっと共有しました。
その結果、同社では「困っていることがあれば、きちんと口に出して依頼する」「働き方のスタイルを相互に尊重する」というルールをチーム内で明文化することになったそうです。
そして同時に、インド人のAさんもその後、「帰る前に、何かお手伝いすることはありますか?と声をかける」「積極的に、コミュニケーションを取る」ようになり、チーム内での不協和音は徐々に減っていったそうです。
島崎ふみひこ
異文化コミュニケーション研究所(R)
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日本企業のダイバーシティ教育、高度外国人財の採用・活用