なぜ彼は、何も言わずに辞めたのか――高度外国人財の離職理由が見えない会社で起きていること
ある日、都内のメーカーで人事を担当する佐藤さんは、1通の退職メールを見て言葉を失いました。
送り主は、入社2年目の外国籍社員・アレックスさん。
大学院で専門性を磨き、日本語でも業務上の会話は十分にでき、周囲からの評価も決して低くありませんでした。むしろ「真面目で優秀」「静かだが着実に成果を出す人」という印象を持たれていました。
それなのに、メールには短くこう書かれていたのです。
「一身上の都合により、退職いたします。これまでありがとうございました。」
上司も人事も、驚きました。
「何か不満があったのだろうか」
「仕事が合わなかったのか」
「母国に帰る事情でもできたのか」
けれど、誰も本当の理由を知りませんでした。
面談を振り返っても、大きな問題は見当たりません。
評価もしていた。
仕事も任せていた。
本人も、表面上は「大丈夫です」「問題ありません」と答えていた。
しかし、退職後にようやく見えてきたのは、会社側が“問題がない”と思っていたこと自体が、実は見落としの始まりだったということでした。
アレックスさんは、入社後しばらくしてから、少しずつ違和感を抱えていたそうです。
会議では自分の意見を求められない。
曖昧な指示が多いのに、確認を重ねると「細かすぎる」と受け取られる。
成果を出しても、何が評価され、何が足りないのかが明確に伝えられない。
周囲との関係も悪くはないけれど、本音を話せる相手がいない。
本人は何度か「このままでいいのだろうか」と悩みました。
それでも、迷惑をかけたくない、空気を悪くしたくない、評価を下げられたくないという思いから、強くは言い出せませんでした。
そして会社側は、「何も言わないのだから問題ない」と受け取ってしまったのです。
このすれ違いは、実は珍しいものではありません。
日本企業では、「察する文化」や「言わなくても分かるはず」という前提が、日常のコミュニケーションの中に自然に存在しています。
一方で、高度外国人財の多くは、役割・期待・評価・課題について、より明確な言語化を求める傾向があります。
どちらが正しいという話ではありません。
ただ、前提が違うのです。
問題は、その違いが放置されたまま、退職という結果だけが突然現れてしまうことです。
佐藤さんの会社では、この出来事をきっかけに、採用後のフォロー体制を見直しました。
上司との1on1を定期化し、「困っていることはありますか」ではなく、「今の業務で分かりにくい点はどこですか」「期待されている役割は明確ですか」と、具体的に聞くようにしました。
また、人事面談でも、本人の適応力だけを見るのではなく、組織側の伝え方や受け入れ方に課題がないかを確認するようにしました。
すると、これまで表に出てこなかった小さな違和感が、少しずつ言葉になっていきました。
「指示の優先順位が分からない」
「会議で発言してよいタイミングが難しい」
「評価の基準をもっと知りたい」
そんな声が早い段階で出るようになり、離職につながる前に対話ができるようになったのです。
外国人社員が辞めたとき、
「本人の価値観の問題だ」
「外国人採用は難しい」
そう片づけてしまえば、同じことは何度でも繰り返されます。
本当に見るべきなのは、本人がなぜ最後まで本音を言えなかったのか、そして会社がなぜそのサインに気づけなかったのかという点です。
離職理由が“不明”なのではありません。
聞き取れる仕組みがなかっただけかもしれません。
優秀な高度外国人財ほど、期待に応えようと努力します。
だからこそ、限界まで頑張った末に、静かに去ってしまうことがあります。
退職の理由を、本人の側だけに求めるのではなく、組織の受け止め方や対話の設計に目を向けること。
それが、次の離職を防ぐ第一歩になります。
《今回のポイント》
高度外国人財の離職理由が見えないとき、原因は本人の中だけでなく、会社側の「聞き取る仕組み」や「本音を引き出す対話不足」にある場合があります。
退職を防ぐには、曖昧な安心ではなく、具体的で継続的なコミュニケーション設計が必要です。
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