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「ことしもゼロだった。」――外国人新卒採用に失敗し続ける会社の話

東京郊外にある、社員数300名ほどの中堅メーカー。
毎年春になると、社内の掲示板には「内定式」の写真が飾られる。
スーツ姿で肩を寄せる若者たちの中に、ことしも“彼ら”の姿はなかった。

そう、「外国人の新卒社員」が、ことしも1人も入ってこなかったのだ。


■「去年よりもエントリーは増えたんですけどね」

採用担当の田中さん(仮名)は、苦笑しながら言う。

「うちも5年前から“グローバル人材採用”に力を入れているんです。大学の国際キャリアセンターにも求人票出しましたし、オンラインで説明会もやりました。今年はエントリーも50名近く来たんですよ、外国人学生から。でも……最終的に内定を受けてくれた人は、ゼロでした」

書類は通る。面接も進む。最終面接までは来てくれる。
だが、その先が続かない。

「うちの説明が悪いのか、条件が悪いのか……。よく理由を聞いても、“もっと成長できる環境に行きたい”とか、“勤務地が限定されているのが気になる”とか、曖昧な返答が多くて。正直、よく分からないんですよ」


■「この会社で、私はどこまで行けるのか?」

一方で、応募していた外国人学生の一人、ファンさん(台湾出身)はこう語る。

「工学部でAI関連の研究してたので、日本で働くことは本当に魅力的だったんです。でも、正直に言うと、面接で『外国人も頑張れば昇進できますよ』って言われたときに、なんだかモヤっとしてしまって」

“頑張れば”。
それって、頑張らないと他の人と同じ評価にならないということ?

「あと、内定を出す前に『日本語能力のさらなる向上を期待します』って言われたのも少し気になりました。私はN1を持っていて、研究発表も全部日本語でしていたのに、それでも“期待”されるって……どういうことだろうって」


■ 会社が求める「多様性」と、学生が見ている「リアル」

この会社に悪意はなかった。
むしろ、門戸は開いていた。説明会には通訳もつけたし、社内制度も少しずつ整えてきた。

だが、「受け入れる」と「活かす」の間には、大きな溝があった。

「外国人もOK」ではなく、「この会社で活躍する具体的なロールモデルが見えないと、若い人たちは来ないんだなと痛感しました」と、田中さんは振り返る。


■ 変わるための第一歩は、「来なかった理由」と向き合うこと

“ことしもゼロだった”。
その事実は、会社にとって失敗ではないかもしれない。
だが、「なぜ来なかったのか」と向き合い、耳を傾けることができれば、そこにはたくさんのヒントが詰まっている。

・評価制度の透明性
・言語だけでなく文化的なサポート
・キャリアパスの具体性
・「多様性」が言葉だけになっていないか

そうした視点で社内を見直したとき、来年の春、掲示板の写真には新しい“顔”が加わっているかもしれない。

島崎ふみひこ
異文化コミュニケーション研究所(R)
https://www.globalforce.link/
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