「採用すること」が目的になっていませんか?
ある日、地方の部品メーカーで人事を担当する田中さんは、社長からこう言われました。
「うちもそろそろ外国人を採用したほうがいいんじゃないか。人手不足だし、グローバル化の時代だからね」
田中さんはうなずきながらも、少し戸惑っていました。
“なぜ採用するのか”が、実は誰の中でもはっきりしていなかったからです。
海外展開を見据えているのか。
社内の多様性を高めたいのか。
理系人財を確保したいのか。
それとも、日本人採用が難しいから代替として考えているのか。
会議では「優秀な外国人留学生は魅力的だ」という話は出るものの、採用後にどの部署で、どの業務を担い、何を期待するのかまでは詰められていませんでした。
それでも募集は始まり、やがて日本の大学院で機械工学を学ぶベトナム出身の留学生・ミンさんが内定しました。
研究内容も優秀、日本語も堪能、面接での受け答えも落ち着いており、誰もが「良い採用ができた」と感じていました。
ところが、入社後に小さなズレが少しずつ表面化していきます。
配属先の現場は、ミンさんに対して「海外との橋渡し役」を期待していました。
一方、開発部門は「研究開発に深く入ってほしい」と考えていました。
営業部門は「将来的に海外営業も任せられるかもしれない」と見ていました。
しかし本人は、面接時に聞いていた「技術職として専門性を高めながら、将来的に国際案件にも関われる環境」に魅力を感じて入社していたのです。
期待が多いこと自体は悪いことではありません。
問題は、それらが整理されず、本人にも社内にも共有されていなかったことでした。
最初の数か月、ミンさんは頼まれたことを懸命にこなしました。
資料の英訳、海外顧客向け説明の補助、現場改善のデータ整理、時には通訳的な役割まで担いました。
周囲は「助かる」「優秀だ」と評価しましたが、本人の中には少しずつ違和感がたまっていきました。
「自分は何を期待されているのだろう」
「専門性を伸ばすために入社したのに、便利な人として見られていないか」
「この会社で3年後、5年後にどんな成長ができるのか見えない」
ある1on1面談で、ミンさんは率直にこう打ち明けました。
「皆さん親切ですし、仕事も一生懸命やりたいです。ただ、自分の役割が少し曖昧に感じています。何を一番期待されているのか、もっと明確だと働きやすいです」
その言葉に、田中さんははっとしました。
問題はミンさんの適応力でも、日本語力でも、文化差でもなかったのです。
会社側が“採用の目的”を言語化できていなかったことこそが、最大の原因でした。
そこから田中さんは、現場責任者、開発部門長、社長を交えて改めて整理を始めました。
「なぜ当社は高度外国人財を採用するのか」
この問いに、真正面から向き合ったのです。
議論の結果、同社の目的は次の3つに絞られました。
第一に、国内では採用が難しい高度な理系専門人財を確保すること。
第二に、将来の海外顧客対応を見据え、技術を理解したうえで国際的に活躍できる人財を育てること。
第三に、社内に新しい視点を持ち込み、製品開発や業務改善の発想を広げること。
目的が明確になると、やるべきことも見えてきました。
まず、ミンさんの主業務を「開発業務」に再設定しました。
翻訳や通訳、海外対応補助は“付随的な期待役割”と位置づけ、本人の成長の軸は専門技術に置くことを確認しました。
次に、上司との面談で「半年後に身につける技術」「1年後に担う案件」「3年後に期待する役割」を言語化しました。
さらに、社内にも「外国人だから何でも国際業務を任せる」のではなく、「採用目的に沿って役割を設計する」ことを共有しました。
変化は少しずつ現れました。
ミンさんは本来の専門領域で力を発揮し、設計改善の提案が採用されるようになりました。
海外取引先との技術打ち合わせでも、単なる通訳ではなく“技術を理解した担当者”として信頼を得ていきました。
社内でも「あの人は日本語ができる外国人」ではなく、「専門性と国際性をあわせ持つ開発人財」として見られるようになったのです。
1年後、社長はこう振り返りました。
「以前の私たちは、“外国人採用”そのものが目的になっていた。けれど本当に必要なのは、経営課題と結びついた採用だった」
これは、多くの企業に共通する話ではないでしょうか。
高度外国人財の採用がうまくいかないとき、私たちはつい、日本語力やカルチャーフィット、本人の主体性に理由を求めがちです。
しかし実際には、受け入れる企業側が「何のために採用するのか」を曖昧にしたまま進めているケースが少なくありません。
採用目的が曖昧だと、募集要件がぶれます。
面接で伝える内容もぶれます。
入社後の配属、育成、評価もぶれます。
その結果、本人は「話が違う」と感じ、現場は「思った人材ではなかった」と感じ、双方に不幸なズレが生まれます。
逆にいえば、採用目的が明確であれば、高度外国人財の活躍可能性は大きく高まります。
大切なのは、外国人採用を“特別な施策”として扱うことではなく、自社の経営課題を解決するための戦略として位置づけることです。
「海外展開のためなのか」
「研究開発力を高めるためなのか」
「社内に新しい視点を取り入れるためなのか」
この問いに答えられる企業ほど、採用後のミスマッチを減らし、本人の強みを活かしやすくなります。
高度外国人財は、単なる人手不足の穴埋めではありません。
専門性、国際性、多様な視点を通じて、企業の未来を広げる存在です。
だからこそ、採用の前に問うべきなのです。
「私たちは、何のためにこの人を迎えるのか」と。
採用の目的が言葉になったとき、はじめて採用は“成功の入口”になります。
《今回のポイント》
- 高度外国人財採用で最初に明確にすべきなのは「なぜ採用するのか」という目的
- 採用目的が曖昧だと、配属・育成・評価のすべてにズレが生まれる
- 「外国人だから任せる仕事」ではなく、「採用目的に沿った役割設計」が重要
- 本人の専門性と将来のキャリア像を言語化することで、定着と活躍が進む
- 高度外国人財採用は、人手不足対策ではなく経営戦略として考えるべき
【ご案内】
第18回「neoGetTogether」~企業×留学生 リクルートイベント
《参加企業募集中!》
■ 日時:2026年6月24日(水) 14:30〜19:00(受付開始14:00)
■ 参加予定人数:日本企業に就活中の留学生 約30名
■ 新規分参加企業数:5社のみ
■前回実績:参加留学生プロフィール(抜粋)
「世界トップレベルの研究・専門性」を持つ学生たちが集結しました。
エジプト 東京大学 大学院 修士:工学系研究科(社会基盤学)
フランス 早稲田大学 大学院 博士:基幹理工学研究科(数学)
中国 慶應義塾大学 大学院 博士:理工学研究科(情報工学)
マレーシア 東京科学大学 大学院 博士:工学院(機械系)
アメリカ 東京科学大学 大学院 修士:物質理工学院(材料科学)
スペイン 慶應義塾大学 大学院 修士:理工学研究科(JEMARO/ロボティクス)
【前回参加者のバックグラウンド】
主要大学: 東京大学、東京科学大学(旧東工大)、早稲田大学、慶應義塾大学、横浜国立大学、電気通信大学 ほか
学位: 博士課程・修士課程の院生が中心
専門分野: 機械工学、情報理工(AI・IT)、材料科学、数学、公共政策など
お問い合わせお待ちしております。
異文化コミュニケーション研究所(R)は、「国費外国人留学生の紹介」、「グローバル人財の採用・活用に関するコンサルティング」のスペシャリストです。