コラム

第10話 娼婦の学割?!

世の中いろいろなことが起こるもんだ。あれは夏休みにニューヨークでバイトをしているときのこと、有名なタイムズスクエアの近くを夜7時頃にウインドーショッピングをしながら観光していたときに起きたこと。

あちらこちらでビルの工事をしていて、それでなくても蒸し暑くて気分が悪かったのだけど、マ~これもニューヨークの光景だな~なんて思いながら、テクテクと歩いていた。ニューヨークの夏は日本の夏と同じように、蒸し暑いし、ビルやコンクリートが熱を持つので夜でも結構寝苦しい。だから、白のTシャツに、白の綿パンをはいてぶらぶらしていたんだけど、突然右斜め後ろあたりに香水の香りと人影を感じたんだよね。

フッと振り返ると、結構美人のおねーさんが立っていて、”Do you wanna date?” って言ってきた。コ、コッりゃ娼婦だ~と直感。もちろん娼婦なんて日本でも見たこともなかったし、話したこともなかったから、僕は慌てたね。それで、どうしたらいいかと思ったときに、英語がわからない振りをすることに決めたんだ。

“I don’t know English.”なんて言って良くわからない振りをしたんだけど、おねーちゃんは仕事柄(?)とっても積極的。僕の腕をしっかり抱きかかえて一緒に歩き始めた。そして、”Are you Chinese?”っていうもんだから、”No,Japanese.”って言ってしまった。

言ってから「まずい」って思ったものの後の祭り。そしたら、なんと彼女日本語で話しかけてきた。「きれいな子いるよ。遊んでかない?」って言うわけだ。それも、耳元で。

僕も男だからね、くらくら~と気持ちが揺れたけど、幸か不幸か貧乏人の学生アルバイトの身分の僕は持ち金ほとんどなく、本能の赴くままの行動を取ることができる状況じゃなかったんだよね。

それで、仕方なく(?)”No, Thank you. “と答えたんだけど、それでも腕をしっかりつかんで、耳元でささやき続けた。それで、「あなたヤクザ?」とか言ったから、日本語で「学生」って言った後に”I have no money.”って言ったんだよね。

すると、うれしそうな顔してなんて言ったと思う?驚いたことに、なんと彼女は「学割あるよ。」って言ってきたんだ!(@_@)!

「学割」!?!ダ、誰だそんな日本語教えた奴は?と感じたが、持っていないものは持っていないわけで、首を強く横に振ったら、こりゃ駄目だと思ったらしく、僕の首筋をそっと触ってウインクをして去っていっちゃったんだ。夏の夜の思いでだけど、結構どきどきものだったよね。(f^^;)

それから、今度は別の夏休みにロスでやっぱりアルバイトをしていたとき、あれは有名なサンセットストリート。道の両側の電柱という電柱に女性が立っているところで、僕は友人の車に乗っていたんだよね。観光気分でその際どい服を着ているおねーさま方を車の中からまじまじと見ていた。こちらの視線を感じると、ウインクをしてくるおねーちゃんもいれば、黄色人種には興味はないわよ!って冷たく見下すようなしぐさをするおねーちゃんもいた。

僕は、車の中で冗談を言いながらおねーちゃんの品評をしたりなんかしていた。
「ネ~、ネ~、あのおねーちゃん、おばちゃんだよね~。」と、たまたま一緒にいたのが日本人だったから、堪能な(?)英語だと普段出ないような流暢な冗談を久々に楽しんだりしたんだよね。

それで、たまたま信号機が赤になったときに、3人組の女性がそばを歩いていたんだよね。でも、遠目にも、なんとなく体つきががっちりしているし、近くで見ると顎のあたりがごっついし、どう見ても女装している男、…つまり「おホモだち」だったんだ。

僕は、「ヘ~こんなところにもホモがいるんだ。」って、何気なく声を発したんだよね。不注意にも窓を開けたままで。すると、そのおねー様方が近づいてきて、車体を蹴飛ばしたんだ。こりゃ~驚いたね。殴られるかと思った。でも、信号が変わったからすぐに発進できて、事もなくすんだけど、あのときは本当におったまげた。(^^;)

車は日本車で、お菓子の缶程度の薄い車体だったけど、ちょっとへこんだ程度ですんだし、僕の車じゃなかったし、良かったのだけど(どこが?!)。冷や汗たらたらものだった。

日本人同士の会話だから、理解できないだろうと思ったのがまずかったのだけど、たまたま発した「ホモ」って言葉が悪かったんだろうね。だって、これも英語だからね。彼ら(彼女ら?)は、すぐにその言葉で自分たちのことを話しているとわかったらしく、車を蹴飛ばしたわけだ。

日本人同士で会話していると、アメリカ人には内容が判らないと安心して、悪口を言っていると、時々言葉の端々に出てくる「外来語」で、痛い目に会うっていう好例だよね。

皆さん、気をつけて!マ~そんなところに行かなければそんな問題も起こらないと思うけどね。そんじゃ!(^^;)

[1999年12月9日発行]