第31話 ルームメートの失踪
4年間の留学生活のうち、約半年間アパートでの生活も経験した。
そのアパートは大学のすぐ横にあり、2階建て。基本的に学生に貸すことを目的としていたアパートなので、部屋の作りはとても質素(f^^;)。2人の学生がシェアーできるように、入り口のドアを明けるとすぐに食事と料理が出きるスペースがあり、その共有スペースをはさんで両側にベットルームが二つあるかたちだった。もちろん、バス(実際にはシャワールーム)、トイレがあり、それらも共有する。
初めから友人二人でシェアーする場合もあるのだろうが、一般的には誰が入ってくるのか分からない。(もちろん、異性のシェアーはお互い望まない限りない(f^^;))。私の場合も、もちろん一人で入居したのでシェアーする相手が誰だかは、引っ越しをしてみるまで分からなかった。私はシェアーする相手が誰でも構わなかったので特に気にはしなかったが、シェアーの相手は黒人の学生だった。
彼は私が入居すると、すぐに自己紹介してくれて、大学でバスケットをしていると話していた。しかし、黒人の割には背が低く、私と同じくらい(173cmくらいかな)。私は、2mもあるようなバスケットの選手の中ではきっと大変だろうな~と感じたりしたが、そんなに人も悪くなさそうだったので、特に悪い印象も持たず、平穏にアパートでの生活をスタートした。
しかし、一度彼の部屋を見せてもらったが、荷物らしきものがほとんどなく、ポスターが一枚貼ってあるだけの殺風景な部屋だったのを記憶している。どちらかというと、留学生の私の方がステレオ(友人から譲り受けたものだけど…)や白黒テレビなんかを持っていて、裕福な感じだった。
シエアーといっても、部屋の構造上全く顔を合わせずに生活できることから、彼とのコミュニケーションはほとんど取ることがなかったが、同じ大学の生徒という安心感もあって、特に何も気になることはなかった。彼は結構愛想もよく、まだ入学して間もないと話していた。(そのとき私はすでに3年生だった。)
彼の方が先に住んでいたため、アパートの電気、水道の手続きは彼の名前で登録されており、わざわざ共有名義にしても意味がないので、彼のところに送られてくる請求書に基づき私が彼に現金を渡すことになった。もちろん、話し合いで電気、水道ともに折半。
引越したのは夏本番直前の5月。そのアパートは学生を対象に作っただけあって安普請で、風通しも悪く、入った当初から暑いな~と感じていた。でも、一応エアコンが使えたので、それなりに夏も過ごせるかなと思っていた。私も結構ケチだったから、電気代節約も兼ねて家ではほとんど勉強せずに、学校の図書館を有効活用したし、食事もバイト先で食べれることもあって、ほとんどキッチンで料理らしいものも作らなかった。何事も倹約、倹約と努力した。
そこでの生活も慣れた1ヶ月後、電気料金の請求書が届いたとアパートをシェアーしていた黒人の彼から声を掛けてきた。正確な金額は覚えていないけど、二人で大体$50位だった。だから、もちろん半分づつの約束に則り、私は$25を彼に渡した。
この程度なら、当時私がアルバイトで稼いだ一日の収入より少なかったので、アパートでの生活も何とかやっていけるとホッとしたが、これから夏本番がやってくることを考えると安心してもいられなかった。私はその後も倹約に努めた。
しかし、6月も末になってくると既に夏は始まりつつあり、どうしてもエアコンをつける時間が長くなっていた。これじゃ、多分来月くらいから電気料金が高くなるな~と危惧していたら、案の定、次回の請求書の金額は$80ほど。前回の1.5倍だ!!
下宿していたときには、電気料金なんて全然気にせずに生活していたから、始めてアパート暮らしの大変さを痛感していた。いずれにせよ、払わないわけにはいかないから、$40彼に渡して支払いをお願いした。
7月になると、当然「夏真っ盛り」。南部のジョージア州では、エアコンなしには生活できない状態になっていた。先月の反省から少しは省エネをしようとはしたものの、熱帯夜にはかなわず、結局毎夜エアコンをつけっぱなしの状態だった。
結果的に、電気料金の請求はめちゃめちゃ高かった。請求書の金額は、なんと$130以上。6月の頃の2.5倍!!$70を彼に渡し、マ~夏だけだもんな~と諦めていた。
でも考えようによっては、毎日エアコンを使っても$70だったので、これ以上電気代を支払うこともないだろうと、8月は倹約するのも少し面倒になって、普通に電気を使っていた。(^^;)
さて、それからしばらくして、突然その黒人のルームメートの姿が見なくなった。
いつもなら彼の部屋には南京錠が掛かっているのだが、学校から帰ると彼の部屋のドアは開けっぱなしになっており、元々殺風景な部屋だったが、さらに何も荷物がなくなっていた。私は、まだ学期も終わっていなかったので、どうしてしまったんだろう?と不思議に思ったが、それよりも引越すなら一言くらい言っていけばいいのに!と腹を立てた。
いずれにせよ、不思議に思った私はアパートの管理人さんにどうしたのか聞きにいったところ、管理人さんはとても怒って私に話しかけてきた。話によると、なんとも彼は入居してから一度も家賃を払ったことがなく、今までの部屋代を踏み倒して蒸発してしまったというのだ!(*_*)
もちろんそれ以来、大学でも彼の顔は一切見ることはなかった….。
私は、ほとんど付き合いもなかったので、それはそれでアパートを独り占めできると喜んでいたが、その喜びはそれほど長く続かなかった。いつものように、電気料金の請求が月末来たからだ。もちろん、彼が失踪した後、私が彼の分も含めて全部支払う必要があることは覚悟していたのだが、さらに驚かされることがあったからだ。
請求書の金額は、$110ほど。先月の合計金額に比べると低くなっていたので、一応はホッとしたのだが、よ~く見ると、その明細書には驚くべき事実が記されてあったのだ!!
あまりの事実に、私は怒りを通り越して笑い初めてしまったのだが、いったいそれは何だったか….、読者の皆さんは想像がつきますか?(f^^;)
その記述に書かれたものは、私が住み始めてから三ヶ月間、私の分の電気料金(つまり請求書の半分)はきちんと銀行に入金してあったのですが、残りの半分、つまり彼が払わなければならない分は、なんと1セントも払っていなかったと書いてあったのです!
私が倹約して電気料金を下げようと努力していたにも関わらず請求金額が上がって行った理由は、なんと彼が自分の分を出さずにいたので、それが毎回翌月に繰越されてからだったのです。だから金額がどんどん膨らんでしまったのです。
なんとも、ひどい話でしょ!
いくらエアコンを使うと電気料金が高くなるとはいっても、あれほどまでに「うなぎ上り」に請求金額が増えていった理由がこれでわかりました。私は、仕方なく全額を支払い、一件落着しましたが、今思えばいい経験をさせてもらいました。
だって、彼が見せた請求書の金額はもちろん総合計の部分だけ。私もそれを何の疑いもなく見ていたのですから….(^^;)。読者の皆さんも光熱費の請求書の中身を隅々見るなんてしないでしょ?でも、こんなこともあるのですから海外留学の最中はきちんと請求書の隅々まで読みましょうね。(^^;;;)
しかし、夜逃げした彼は今ごろ何をしているのでしょうかね~。そんじゃ!(^^;)
[2000年5月11日発行]