第59話 聞いてはいけないこと
留学して一番困ることは、質問しずらい内容を質問することだ。
具体的にどんなことかというと、「おしっこ」とか、「うんち」 (^_^;)
これは日本人だろうが、アメリカ人だろうが、もちろん男だろうが女だろうが、みんな生きている限りはお付き合いしなければならないことだから、本当は恥ずかしがることはないのだが、その手の質問はしずらいのも事実。
まだヨチヨチしている赤ちゃんに「おしっこはいいの?うんちは?」とお母さんがオムツの様子を気にして質問している光景を誰しもみたことがあるはずだ。
そして、クリクリのかわいい目をした子供が「うん、しちゃった…。」と恥ずかしそうに返事をしている様子は、本当にかわいい。
しかし、まったく同じ意味でお母さんが「小便と大便は?」と子供に質問していたら、きっと驚くだろう。だって、そんな言葉はかわいいわが子に母親が使うわけがないからだ。
つまり、「意味さえ通じれば十分」とはこの場合ばかりはいかないのだ。
アメリカの学生は「こんちくしょう!」と言った意味で、「Shit」つまり「うんち」とよく言うし。また、「いらいらする」という意味で「Piss off」つまり「おしっこをもらす」などと言うが、子供にお母さんはそんな言葉を絶対に使わない。
母親が使う場合は、poopでありpee-peeなのだ。
この手の言葉を学ぶためには、やはり心の通った友人を作って質問するしかないのだが、なんて言っていいのかわからない場合は、婉曲な表現をするしかない。マ~そのあたりの苦労も、留学では楽しいものだが….。
さて、一度私もこの手のことでものすごく恥ずかしい思いをしたことがある。
あれは留学のはじめの頃、ホストファミリーに、工場を見学に連れて行ってもらったときのことだ。その工場はご主人の働いていたところで、何の工場かは記憶に残っていないが、とにかくでかかったのを覚えている。
見学コースを一巡した後、見学記念にと「Cross」のボールペンをもらった。
非常にうれしくて、とにかく”Thank you very much!”を何度も繰り返した。
工場見学の後は、食事に行くはずだったのだが、ホストファミリーの奥さんが、私たちに向かって”I’ll go to shower room.”と言ったのだ。
留学したての私は、英語ができない上にアメリカの習慣にまったく不慣れだった。そのためその奥さんの言葉に、一体何が起こったのか意味不明状態になり、「エッ!?なんで?これからレストランに行くはずなのに、なぜ風呂に行くの?それに、ここは家ではなく工場…」とちょっとパニック状態。
私は、”Where will you go?”と質問したのだ。彼らは”Shower room”ともう一度言ったので、”Will you take shower?”と再度質問。
彼らは困惑した顔をしながら、”No, not taking shower!”と返事をしたので、すかさず私は ”But you said you will go to shower room. What will you do?”と質問をした。
ご主人がいろいろな表現をして説明をしてくれたのだが、ボキャブラリー不足の私はまったく理解できず、自分の発音が悪いために私の質問が相手に伝わらないのかと思い、ゆっくり発音してみたり、シャワーを浴びるジェスチャーをしたりと、「シャワーを浴びないのに、なんしにシャワールームに行くんだ?」と質問をし続けた。
多分、その間5分程度。
困り果てたご主人、最後にしてくれたことはとてもわかりやすかった。
彼は、自分のズボンのチャックに手をかけたのだ。
ギョエッ……!!!!アッ!!!!….エ、エ、そういうこと!!!!
初めて私は、とんでもない質問をレディーにしていたことに気がついたのでした。なんと、私は女性に向かって「トイレになにしに行くの?」と質問をしていたのでした!!
顔面蒼白!ちょっと前に”Thank you very much.”と繰り返していた私は、一転”I am very sorry.”を繰り返す羽目になってしまったのでした。
イヤ~、冷え冷えする工場の中、5分間も妊娠をしていた奥様をお引止めした上、まったくナンセンスな質問をしていた私が恥ずかしい….。
しかし、日本から行ったばかりの私にとっては「お風呂場」と「お手洗い」は別の場所にあって当たり前だったのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが….。
皆さんも、この手の質問はくれぐれも気をつけて。(^o^;)
それじゃ!!
[2000年12月22日発行]