コラム

第2話 英語のこと始め

概して日本人は、英語を多少は読み書きできても聞くことができない。留学生にとっては、これはとても大きなハンディーキャップだ。もちろん、聞けないってことはまともに話せないんだから、コミュニケーションが取れない。

コミュニケーションが取れないって、辛いもの。
たとえてみれば、「飼い犬」になった気分だ。ご主人に連れられて散歩に出かける。それなりに楽しいのだけれど、ご主人が近所の人と楽しそうに会話をしていても、何を言っているのかわからないから、その輪に入れない。時折、頭を撫でられ「尻尾を振っている」…。結構みじめな気持ちだったりする。

留学初期の頃は、「何で理解できないんだ!もう何ヶ月も生活しているのに!!」という焦りが重なってストレスに成りがちだ。ぼくも、2~3ヶ月経った頃、かなり落ち込んでいた。

でも、ひょんなことからその不安を吹っ切ることができた。

あれは、ぼくが通っていた大学を卒業して、他の州の大学院に通っている先輩が恩師の先生に会いに来たときのこと。留学新人の私も呼んでもらって、先生の家でパーティを開くことになった。彼らと先生は楽しそうに会話(もちろん英語で)しているのだけど、ぼくはニコニコしながら、テーブルに向かっているだけ。さすがに、日本人の話している英語なので、内容だけは理解できるのだけど、その「会話の輪」に入ることが出来なかった。

そこで、「そんなに会話が出来てうらやましい」って半分お世辞も込めて、その先輩に話したところ、先輩はかなり冷たく返事を返してきた。

「当たり前でしょ。あんたより、何年長くアメリカで生活をしていると思っているのよ!」

結構ショックだった。
慰めの言葉をどこかで期待していたぼくは、頭ごなしに叱られた気がして、言葉を失ってしまったのだけど、反面、何か吹っ切れた気がした。なんだ、まだ俺は数ヶ月しかアメリカで生活していなんじゃないか!そう思うと不思議なもので、出来なくて当たり前と開き直って、いつもより落ち着いていることが出きるようになり、焦りがなくなった分、ヒヤリング能力が向上し、結果、自然と少しずつ会話の輪に入ることができるようになってい
った。

言葉なんてそんなもんだ。

ちなみに、経験上、英会話をもっとも習得しやすい方法を教えてあげよう。何事にも、レベルがある。だから、始めは背伸びをして、高いレベルの人の会話に入ろうなんて考えてはいけない。初級コースの人にとって、一番いいのは、外国人、つまり英語圏以外の国から来ている留学生の英語を聞くことだ。

彼らの英語は一般的に非常に判りやすい。
スラングや、略語を使うこともないし、多分ボキャブラリもほとんど日本人留学生と同程度だ。それに、ゆっくり話すから理解しやすい。でも、そんな彼らの英語をアメリカ人は理解しているのだから、はじめからアメリカ人の発音で頑張ろうなんて思わず、そのあたりから「通じる英語」をしゃべるようにするといい。かなり若いころならまだしも、大学あたりから留学しても、脳みその柔軟性は失われているから、無理をせずに、まずは開き直ってみることをアドバイスしたい。

ただ、僕の記憶によればアラブ系の人の英語はちょっと発音に癖があって、口の中でもごもご話す人が多く、あんまり彼らの英語は参考にならないかもしれないので、要注意。

ちょっと脱線するけど、アラブ系の留学生はすごい!
なんせ、お国では酒はだめ、女はだめ(女性の皆さん失礼な表現許してね)なもんだから、アメリカに来るとこれが狂うわけだよね。国費留学の連中が多いんだけど、一度アメリカの「自由」に慣れてしまうと国に帰りたくないらしく、結構卒業間際に学校の先生に「アメリカに残るためにはどうしたらいいか?」って質問をする連中が多いって聞いたことがある。

でも、「あんな英語でどうやって?」と質問したくなるような、美人の彼女を連れているのを見ると、どうせ俺は「チンケな東洋人さっ」て思っちゃったりしたもんだ。オハズカシイ…(f^^;)

  [1999年10月14日発行]