第19話 旅行 – 寂しい大都会
再び、一人旅の続きです。
ニューヨークの滞在も最後の日となった。
今回もバスの中で一夜を過ごす計画だったので、午前中ユースホステルをチェックアウトしてから夕方になるまでの時間、マンハッタンを歩き回った。ただ、最後の日は荷物を背負う必要があったので、数日間軽快に歩くことに慣れた私にとってはかなり重労働だった。それに、憧れのニューヨークへ滞在した思い出をかみ締めて歩くと、心なしか気持ちが沈んでいたのが理由だったのかもしれない。
貧乏学生の私には、ニューヨークにまた来るなんて全然考えられず「もう二度と来ないんだろうな~」と感じていると、摩天楼がとても高く感じられた。(実際にはこの後、今までに3回訪問しているのだが、その時には予想も出来なかった。)
滞在期間中は、お決まりの観光ツアーコースである、自由の女神、World Trade Center、エンパイヤステーションビル、そして各種美術館を勢力的に見てまわった。あまりにもたくさんの名画を鑑賞したために、自分でも描けるかと想い寮に帰ってから絵の道具を買った。しかし、実際に描いてみるとどうもあの美術館にあった絵のようにうまく描けない(当たり前だけど(f^^;))、結局、夢が破れるまでにあまり時間は掛からなかった。芸術の才能がある人は、うらやましくてならない。(^^;)
マ~、重い荷物を背負っていたので、さすがに面倒になり、4時頃にはグレーハウンドのバス停に行ってしまいました。それから、5時間くらい待つことになるのですが、人間観察でもしていようと、ボ~とバス停に来る人の様子を眺めていました。
バス停とは言っても、日本で言えばちょっと大きめの「駅の待合室」のようになっており、十分休むことができるスペースがありました。長い時間を過ごしていましたから、バスが何台も出入りし、多くの人たちが私の目の前を行き来したのですが、なぜか数名の人達は、私と同じようにず~と動きません。「もしかしたら、同じバスにでも乗るのかな~?」と思ったりしていたのですが、実は違っていたらしいのです。
それがわかったのは私が居眠りしていた最中です。
カンカンカン!と何かを叩く音がしたのです。目を覚ましてフッと見ると、先ほど座っていたおばあさんの椅子を警察官が警棒で叩いていたのです。そして、そのおばあさんを怒鳴り付けて、「出て行け!」と言っていました。多分、そのおばあさんはホームレスで、行くところもなく、暖を取る目的もあり、バス停で一日中座っているのだと思います。それを知っている警察官が、「ここはバスを利用する人達の場所だ!」と言って追い出しにかかっていたのです。
しかし、外はもう日も暮れて、真っ暗。それに、真冬の寒さが待っています。
彼女の荷物らしい荷物は、ペーパーバック2つだけ。年齢を推察すると、多分70歳くらいに見えました。そんなお年寄りに向かって、警察官はきつく注意していたのですが、やはり出て行きたくないらしく、そのおばあさんは椅子にしがみついていました。すると、警察官はそのおばあさんの首根っこを掴んで強引に引きずり出したのです。
私はちょっと驚いてしまいました。
だって、年齢からすれば自分の祖母くらいの人です。そんな人に、暴力をふるっていたのですから、心が痛みます。この騒ぎは、時間にしてほんの一、二分ですが、私の記憶に残るとても悲しい思い出の一つになってしまいました。
警察官のやっていることも、仕方ないことです。だって当時はものすごい数のホームレスがニューヨークを徘徊していましたから、ほっておくとバス停がホームレスだらけになってしまうからです。しかし、なんとも「せつない」ニューヨーク最後の思い出となってしまいました。(@_@)
[2000年2月10日発行]