第28話 たばこ
今回は、タバコに関するエピソードを紹介しよう。
アメリカ発の「禁煙運動」は世界に広がっている。
日本でも、数年前からオフィスでタバコが吸えなくなったりしているため環境が改善されてきて嬉しい限りだ。なんせ、喫煙が許可されていたころは、年末の大掃除の雑巾は見られたものじゃなかった。書庫ロッカー、壁だけでなく、スチール机の横等、奥の方まで『ヤニ色!』。これじゃ体に良いわけはない。
とは言っても、実は私もタバコを吸う。(f^^;) [2010年頃には辞めました!]
マ~、元々禁断症状がでるまでの依存症ではないので1週間に一箱もあれば十分なのだが、学生時代は勉強に疲れて図書館から出てキャンパスを眺めながら一服するのがとても良いストレス発散になっていた。
ある日、授業が始まるのを待っていたときだ、廊下でたくさんの生徒が教室が開くのを待っていた。廊下の端には喫煙所があり、タバコを吸う生徒たちが灰皿を中心にして輪を作っていた。私も時間を持て余していたので一服していたが、そろそろクラスが始まると思い、その場を立ち去ろうとしていた。
すると、そばにいたアラブ系の留学生がツカツカと近寄ってきて私に向かって『火ありますか?』と聞いてきた。私は、タバコを吸うのに火がないんだな?と思い、すかさず「あるよ。」と答えてカバンの中からライターを出そうとしたところ、そのアラブ系の留学生、私がタバコを吸うことを確認したらしく、『それなら、タバコ下さい。』と言ってきたのだ。
タバコを吸う人なら分かると思うが、タバコの一本や二本上げるなんて気にならないものだ。自分も手持ちにないときには、貰ったりしているのだから、『タバコ貰えますか?』と言われれば、誰だってそんなに気にせずに上げるのだが、そのアラブ系の学生に対してはちょっと腹が立った。
何故なら、『火があるなら、タバコも持っているだろう。』という二段論法で、私が持っていないと言い訳ができないように話を持ってきたからだ。マ~、そのときにはそのまま一本渡してやったが、腹が立った。これが『アラブの商人』のやり方なのかどうか知らないが、彼は目的を果たし、私は気分の悪い思いをしたのだ。これは、タバコのとても忘れられない思い出として鮮明に記憶に残っている。
ちなみに、その学生の姿はしばらくしてキャンパスから消えていたので、中退したのか、逃亡したのか、….。英語がほとんど話せなかった様子だったので、きっと退学になったのかもしれない….。ザマ~見ろ!(^^)v
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それから、タバコに関して鮮明に覚えていることがある。
あれは寮に住んでいた頃のこと、当時ラッセルという元気でニコニコ笑う学生がいた。彼は、ほとんど英語を話せない日本人留学生の私なんかにも分け隔てなく挨拶をしてくれたりして、とても良い学生だった。
その彼が、寮の中を裸足でドタドタ走りながら大笑いをして寮のみんなに呼びかけていた。「やった、やった!(All right! All right!)」と、誰かに話をしたかったらしく、飛び跳ねていたのだ。
たまたま部屋にいた私は、「どうしたの?」と廊下を飛び跳ねている彼に向かって尋ねたところ、あまりにも嬉しかったらしく息を切らせながら早口で捲くし立てながら、「俺の部屋にきてみな!」と呼んでくれた。
彼の部屋は私と同じフロアーの角にあり、大学のグランドが見渡せる見晴らしの良い部屋だった。ちなみに、彼のルームメートはラッセルとは正反対の性格で、ちょっと陰気そうな雰囲気の男だった。ちょっと痩せこけて、黒系の服を好み、背中を丸める癖のある『噛みタバコ』を好んでいた奴だった。そして、「ペッ、ペッ」とよく唾を吐いていた。
ちなみに、ここでちょっと説明を加えよう。よくアメリカの野球選手がチュウインガムを噛んでいるようにして、唾を頻繁に吐いているのを見たことはないだろうか?あれが、その『噛みタバコ』だ。
ニベアの缶程度の入れ物に入っているのだが、蓋を開けると中には湿ったタバコの葉が入っている。それを、指で一掴みして唇と歯の間に詰め込み、噛むようにしてタバコのエキスを楽しむ(?)のだ。もちろん、煙にして肺に入れてもニコチンやタールが溜まって体に悪いのだから、当然口の中に入れたタバコと唾の混合物(f^^;)は体に良いわけがない、そのため、口から吐き出しているというわけだ。
さて、話を元に戻そう。
私を部屋の入り口に連れてきた彼は、ルームメートが授業に言っていることをまず私に伝え、順を追って説明してくれた。ラッセルはルームメートの『噛みタバコ』が嫌いだった。理由は、外で噛む分には唾を吐いていても気に掛からないが、部屋の中でまさか床に唾を吐くわけにはいかないので、彼は「痰壷」ならぬ、『噛みタバココップ』を準備して、その中に唾を吐いていたことから始まる。なぜなら、頻繁にそのコップを洗っていればそんなに気に掛からないのだが、彼はそのコップが唾で一杯になるまで捨てないのだそうだ…。ゲゲゲ…(*_*)
コップの大きさは、マクドナルドのMサイズほどの大きさ…。(@_@)
そりゃ、ラッセルにとっちゃ気分が悪かったろう。
ましてや、そのコップはルームメートの机の横にあるの窓際に置いていたそうだ。つまり、窓を開けて換気をすると、「モロに」その匂いを部屋中に拡散させてしまうわけだ。まったくもって最悪!
ラッセルも人がいいのだろう、今まで我慢してたらしのだが、今回はその鬱憤(うっぷん)を一挙に解消した。
それは、(彼は笑いをこらえながら一生懸命話をしてくれていた)、何と部屋のブラインドが風の勢いで大きく揺れてしまい、その『噛みタバココップ』を倒して、何とルームメートのベットの上に一面ぶちまけたからだ(+_+)
あんまり想像はしたくないが、よっぽど「グロテスク」&「悪臭」だったことだろう。
たしかに、見るとそのベットの上にはブランケットもシーツもなかった。ルームメートは、授業が始まる前に全てはずしてロッカーに持っていったというのだ。
その様子があまりにも滑稽だったらしく、ラッセルは寮のみんなにその話がしたかったらしいのだ。あれからしばらくして、ラッセルは大学を卒業して不況の最中のアメリカではめずらしく「ゼロックス」に就職が決まったと話をしてくれた。しかし、あのときのラッセルのうれしそうな顔は今でも忘れられない。(^^;)
[2000年4月13日発行]