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「なぜ辞めたのか」が分からない会社へ——高度外国人財の離職理由を見失った、ある企業の失敗

ある日、都内の中堅メーカーで人事を担当する佐藤さんのもとに、一本の報告が入りました。
「入社10か月目の外国人社員が、退職したいと言っています。」

その社員は、海外の有名大学院を修了し、日本語も堪能。配属先の部門でも「優秀な人が入ってくれた」と期待されていた存在でした。仕事ぶりもまじめで、遅刻や欠勤もなく、表面上は何の問題もないように見えていました。

だからこそ、佐藤さんは耳を疑いました。
「何かトラブルでもあったのですか?」
上司に確認しても、返ってきたのは意外な言葉でした。
「いや、特に問題はなかったと思います。」
本人に理由を聞いても、
「いろいろ考えた結果です」
「今後のキャリアを見直したいと思って」
と、はっきりしない答えしか返ってきません。

会社としては、給与も業務内容も一定の配慮をしていたつもりでした。
ビザの手続きも支援した。生活面でも相談に乗っていた。職場のメンバーも、本人に対して悪意があったわけではありません。

それなのに、なぜ辞めるのか。
その理由が、最後まで分からなかったのです。

退職後、佐藤さんは改めて周囲に話を聞きました。すると、少しずつ見えてきたものがありました。

配属先では、本人に対して「優秀だから、細かく説明しなくても分かるだろう」という空気があったようです。会議でも、前提知識を共有しないまま話が進み、日本人社員同士では通じる“暗黙の了解”がそのまま使われていました。本人はそのたびに理解しきれない部分を抱えながらも、「何度も聞くと迷惑かもしれない」と遠慮していたそうです。

また、上司は「特に不満を言わないから大丈夫」と受け止めていました。
しかし実際には、本人は評価基準が見えにくいこと、自分に何を期待されているのか曖昧なこと、そして将来どのような役割を担えるのかが見えないことに、少しずつ不安を募らせていました。

決定的だったのは、定期的な対話の不足でした。

業務連絡はしていても、
「今の仕事をどう感じているか」
「困っていることはないか」
「この会社で実現したいことは何か」
といった、本音に触れる会話はほとんど行われていなかったのです。

会社側は「問題が起きていない」と思っていました。
けれど本人は、「問題を言葉にする機会がなかった」のかもしれません。

高度外国人財の離職で怖いのは、退職理由が“見えにくい”ことです。
表面的には「キャリアの都合」「家庭の事情」「環境が合わない」などの言葉で整理されても、その奥には、職場での孤立感、期待役割の不明確さ、評価への不安、成長実感の欠如など、企業側が気づけるはずだった要因が隠れていることがあります。

この企業の失敗は、採用そのものではありませんでした。
むしろ、優秀な人財を採用することには成功していたのです。
失敗は、入社後に「なぜこの人はここで働くのか」「この人は何にやりがいを感じ、何に不安を抱くのか」を、継続的に確かめなかったことにありました。

外国人だから特別、ということではありません。
ただ、言語、文化、職場習慣、評価の受け止め方に違いがあるからこそ、日本人社員以上に“対話による確認”が重要になる場面があるのです。

退職は、ある日突然起きるように見えて、実は小さな違和感の積み重ねであることが少なくありません。
そのサインを見逃さないために必要なのは、制度よりも先に、日常のコミュニケーションです。
「辞める理由」を退職時にはじめて知る会社ではなく、
「辞めたいと思う前に話せる」会社になること。
そこに、高度外国人財が活躍し続ける職場づくりの出発点があります。

《今回のポイント》
高度外国人財の離職理由が見えにくいのは、本人に問題があるからではなく、企業側に本音を引き出す対話の仕組みが不足していることが多いためです。退職時の理由だけを見るのではなく、日常的な面談や期待役割のすり合わせを通じて、小さな違和感を早い段階で把握することが重要です。

異文化コミュニケーション研究所(R)は、「国費外国人留学生の紹介」、「グローバル人財の採用・活用に関するコンサルティング」のスペシャリストです。

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