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優秀な外国人材が育たないのは、本人の能力不足ではない――教育・指導の“思い込み”が招いた失敗事例

ある中堅メーカーで、初めて高度外国人財を採用したときのことです。
採用されたのは、母国の有名大学院で工学を学び、日本語でも業務会話ができる優秀な人材でした。現場も経営陣も、「これだけ優秀なら、すぐに活躍してくれるだろう」と大きな期待を寄せていました。

入社後、彼は真面目に働いていました。
言われた仕事はきちんとこなし、遅刻も欠勤もありません。ところが、3か月ほど経った頃から、上司の表情が曇り始めます。

「仕事への主体性が足りない」
「分からないことを自分から聞きに来ない」
「もう少し日本のやり方を理解してほしい」

一方で、本人もまた戸惑っていました。

「何をどこまで自分で判断してよいのか分からない」
「質問したいが、忙しそうな上司に何度も声をかけてよいのか不安」
「注意はされるが、何をどう改善すればよいのかが見えない」

実はこの会社では、日本人社員に対しても“背中を見て学ぶ”文化が根強く残っていました。
新人研修はあるものの、実務に入れば、細かな説明は最小限。周囲の動きを見ながら覚え、空気を読み、必要なら自分から動くことが期待されていたのです。

しかし、その前提は、全員に通用するわけではありません。
特に高度外国人財の場合、能力が高いからこそ、「明確な期待値」や「判断基準」が示されれば、一気に力を発揮するケースが少なくありません。逆に、それらが曖昧なままでは、優秀さが埋もれてしまうのです。

この会社で起きていた問題は、本人の能力不足ではありませんでした。
「教育・指導は、察して動ける人を前提にしていた」ことが、最大の原因だったのです。

転機は、ある人事担当者の提案でした。
「本人に合わせた特別扱いではなく、誰にとっても分かりやすい指導に変えてみませんか」

そこで会社は、教育・指導の方法を見直しました。

まず、業務ごとに「期待する成果」を言語化しました。
何を、いつまでに、どのレベルでできればよいのかを明確にしたのです。

次に、「分からないことがあれば聞いて」と言うだけではなく、
「毎週火曜と金曜の15時に進捗確認をする」
「その場で質問を3つまで必ず出してよい」
というように、質問できる機会そのものを制度化しました。

さらに、注意や指導の際も、抽象的な表現をやめました。
「もっと主体的に」ではなく、
「会議前日までに懸念点を1つ共有してほしい」
「報告の際は、結論→理由→対応案の順で話してほしい」
というように、行動レベルにまで落とし込んで伝えるようにしたのです。

すると、数か月後には変化が表れました。
本人は自信を持って提案できるようになり、上司との認識のズレも減少。周囲からは、「こんなに力のある人だったのか」という声まで上がりました。

この失敗事例が教えてくれるのは、非常にシンプルです。
高度外国人財が活躍できないとき、私たちはつい「本人に課題がある」と考えがちです。けれど実際には、教育・指導の設計そのものに原因があることが少なくありません。

優秀な人材ほど、曖昧さで評価される環境では力を発揮しにくいものです。
一方で、期待、基準、相談の機会、フィードバックの方法が整えば、その力は驚くほど早く組織に還元されます。

外国人だから特別な教育が必要なのではありません。
むしろ、多様な人が活躍できる教育・指導に見直すことが、日本人社員を含めた組織全体の成長につながるのです。

採用は、ゴールではありません。
本当の勝負は、入社後の教育・指導にあります。
“優秀な人を採ったのに定着しない、育たない”という悩みの裏には、企業側の教え方の前提が潜んでいるかもしれません。

《今回のポイント》

・高度外国人財が活躍できない原因は、本人の能力不足ではなく、教育・指導の曖昧さにある場合がある
・「察して学ぶ」前提ではなく、期待値・判断基準・質問機会を明確にすることが重要
・抽象的な指導ではなく、行動レベルで具体的に伝えることが成長を促す
・多様な人材に伝わる教育体制は、組織全体の生産性向上にもつながる

異文化コミュニケーション研究所(R)は、「国費外国人留学生の紹介」、「グローバル人財の採用・活用に関するコンサルティング」のスペシャリストです。

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