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なぜ彼は辞めたのか?高度外国人財の“本当の離職理由”に向き合えなかった会社の末路

「特に問題はなかったはずなのに、なぜ辞めたのか分からない」
高度外国人財の離職において、こうした声を耳にすることは少なくありません。

評価も悪くない。人間関係にも大きなトラブルはない。むしろ周囲からは「優秀だった」「もっと続けてほしかった」という声すら上がる。にもかかわらず、突然の退職。理由を聞いても「キャリアの方向性の違い」「一身上の都合」といった曖昧な回答しか得られない——。
こうした状況に直面した企業は、次の採用でも同じ失敗を繰り返してしまうことがあります。

都内のIT企業B社でも、同様の出来事がありました。
同社は海外展開を見据え、東南アジア出身のエンジニアを採用。技術力は高く、日本語も日常会話レベルで問題なし。入社後のパフォーマンスも安定しており、プロジェクトにも順調に参加していました。

しかし入社から1年後、その社員は突然退職を申し出ます。
理由は「自分のキャリアに合った環境を求めて」。上司も人事も驚きました。「何か不満があったのか」と尋ねても、「特に大きな問題はありません」との回答。引き止めも試みましたが、本人の意思は固く、最終的には退職となりました。

退職後、社内ではさまざまな憶測が飛び交いました。
「給与が低かったのではないか」
「もっと英語を使いたかったのでは」
「日本の働き方が合わなかったのかもしれない」
しかし、どれも確証はなく、結局“本当の理由”は分からないまま時間が過ぎていきました。

問題はここからでした。
B社はこの出来事を「仕方のない離職」として処理し、特に深掘りをしませんでした。そして半年後、同様に外国人エンジニアを採用。しかし、この2人目も約1年で退職してしまいます。理由はやはり「キャリアの方向性の違い」。

ここで初めて、経営陣は「何か構造的な問題があるのではないか」と疑問を持ち始めました。

外部のコンサルタントを入れ、過去の離職者へのヒアリングを試みたところ、驚くべき共通点が浮かび上がりました。
それは、「キャリアの見通しが見えない」という点でした。

具体的には、以下のような声がありました。
「この会社で3年後、5年後にどんな役割を担えるのか分からなかった」
「評価基準が曖昧で、何をすれば成長できるのか見えなかった」
「上司との1on1が形式的で、本音を話せる雰囲気ではなかった」

つまり、表面的には問題がないように見えても、内側では“将来への不安”が積み重なっていたのです。そしてその不安は、日々の業務の中では表に出にくく、退職という形で初めて顕在化していました。

さらに重要なのは、これらの問題が外国人財特有のものではなかった点です。
日本人社員の中にも、同様の不満を抱えている人は一定数存在していました。ただし、日本人社員の場合は「なんとなく我慢する」「すぐには辞めない」という選択を取りやすい。一方で外国人財は、より合理的に環境を比較し、自分の成長につながらないと判断すれば、次の機会へと移る傾向があります。

この違いが、「突然辞めた」「理由が分からない」という印象を生んでいたのです。

B社はこの反省を踏まえ、大きく3つの改革を行いました。

1つ目は、キャリアパスの明確化。職種ごとに期待役割と成長ステップを可視化しました。
2つ目は、評価制度の見直し。何を達成すれば評価されるのかを具体的に定義しました。
3つ目は、1on1の質の改善。上司に対して、フィードバックと対話のトレーニングを実施しました。

その結果、次に採用した外国人エンジニアは、3年を超えて活躍し続けています。さらに、日本人社員の離職率も改善するという副次的な効果も生まれました。

この事例が示しているのは、「離職理由が分からない」のではなく、「分かろうとしていなかった」可能性があるということです。
形式的な退職理由だけを見ていては、本質にはたどり着けません。本当の理由は、日々のコミュニケーションや制度設計の中に潜んでいます。

高度外国人財の離職は、単なる個人の選択ではなく、組織の課題を映し出す鏡です。そのサインを見逃さず、構造的に向き合うことができるかどうか。そこに、企業としての成長の分かれ道があります。

「なぜ辞めたのか分からない」と言い続けるのか。

それとも、「なぜ辞めたのかを理解し、次に活かす」のか。
その違いが、これからの人材戦略を大きく左右していくでしょう。


《今回のポイント》

「離職理由が分からない」は、実は深掘り不足であるケースが多い
表面的な問題がなくても、キャリア不安が離職の要因になる
外国人財は合理的に環境を判断し、早期に転職する傾向がある
キャリアパス・評価制度・対話の質が定着に直結する
離職は組織課題を映す“シグナル”として捉えるべき

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