コラム

第8話 「アメリカが世界一だから」

アメリカ人は意外に田舎ものだ。他の章でも説明するけど、唯我独尊と言おうか、中華思想と言おうか、大国意識っていうのがある。たしかに、アメリカは経済力にしても政治力にしても、ダントツだ。でも、謙虚さがほしいよね。

人間だって、国だって同じ。力のあるものは、その力におぼれずに、横暴にならないようにしなければいけない。

生活のためのアルバイトで、中華レストランでウエイターをしていたとき、懇意にしてくれる老夫婦がいた。彼らは、元先生だったとのことで、当時は退職して裕福とは行かないまでも悠悠自適な生活をしている様子だった。彼らは、週に一度必ず私の働いていたレストランを訪れ、私のことを指名してくれた。チップはそんなに多くなかったけど、やはり私のサービスを気に入ってくれたのはそれなりに嬉しかった。

毎回事前に電話を掛けてきて、いつものテーブルを予約。いつもと同じ時間にご夫婦で来店してくれた。私は学校の話しや、日本の話しをして彼らの食事の話題作りをし、ときに他のテーブルのことを忘れるくらい会話を楽しんでいた。私の生活がこのバイトに掛かっていることを知った彼らは、いろいろなことを気遣ってくれたので、ありがたかった。

ある日、ご主人が私に向かって「何でアメリカに勉強に来たんだい?」と質問をしてきたことがある。私は、『外国の文化に触れたかったし、コンピュータもアメリカの方が進歩していると思ったし、そして最大の理由は英語を勉強するため、…』とか説明するつもりで、口を開けようとした瞬間、奥さんの方がご主人に向かってこう言っていた。

「あなた、それはもちろん、アメリカが世界一だからよ。」

ぼくは、ちょっと驚いてしまった。
たしかにこの地球上でアメリカが一番の国であることは認めざるをえない事実かもしれないけど、アメリカの片田舎の街の御年寄りからこんな言葉が出てくるなんて信じられない思いだった。

奥さんに、そう言われてしまっては返す言葉がなく、その場はニコニコして過ごしたけど、ちょっと気分が悪かった。このあたり、アメリカ人の傲慢さが出ているな~と感じた。基本的にアメリカ人はこの感性を持っていると私は思っている。そういうその国の価値観、考え方を感じることも、留学のメリットだ。

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海外に出ると、日本にいるときには意識しなかった、長い歴史を背景とした「文化」が自分自身に根付いていることに気がつく。何気なく交わす挨拶でも、相手に敬意を示しちょっと会釈するなんていうのは、日本の文化だろう。始めのうちはアメリカ的に元気よく「ハイ!」と目を見つめて挨拶ができなくて苦労したりするものだ。

私はたいしたこともしていなかったのに、ホームステイさせてもらった家のおじさんや、おばさんからも、「日本人は礼儀正しい」とよく誉められたものだ。

道端に平気でタバコの吸殻を捨てたり、平気で自然を壊したりする国民性だったりするのに、なぜかしら自然と調和したイメージを日本人に対してアメリカの人は持っているようだし、また、日本人は礼儀正しいと思われている。

私も含めて、現代の普通の日本人は、それほど礼儀正しいとも思えないけど、きっと、先人の日本人が築いたイメージがそういうありがたい「遺産」を残してくれたのだと思ったりする。そして、そう言われてみると、なるほど自分でも気がつかないところで「文化」が染み付いていると感じることがある。自分自身を知ることが出きるのも、留学のメリットかもしれない。ちなみに、海外では大家さんは日本人に家を貸したがるそうだ。理由は、比較的綺麗に家を使ってくれることと、家具を丁寧に扱ってくれるからだそうだ。参考まで…。

文化は、ちょっとやそっとの年月でできるものではないから、アメリカのように数百年前には存在しなかった国には、日本人が持っているような、生活に染み込んだ「文化」なんてないのだろう。だから、彼らからすると、日本のように、千年単位での歴史を持った国や文化に対して、一種の憧れがあるようだ。

アメリカ人と会話すると、ときどき「出身はドイツだ。」とか、「スコットランドだ。」とか説明する人に出合う。もちろん、彼らの祖父らが、アメリカに移民してくる前のことを言っているのだけど、自分に流れている血がどこの「出身」かということが、それなりに意味を持っているところをみると、アメリカの歴史の浅さにちょっとした寂しさを持っているようだ。だから、日本人たる私たちは、自分の受け継いている文化に感謝し、自信をもたなければならないと感じる。

私自身、その「自信」を持っていたから、老夫婦の奥さんが「アメリカが一番だから」と平気で言いきる様子が、腹立たしくはあったけど、ちょっと哀れにも思えてしまった。

アメリカは未だに人種差別が残っている国だ。その国で、英語もまともに出来ずにいる日本人留学生は、やはりときに馬鹿にされたり、差別を感じることがあったりする。でも、自分の親も、その親も、またまたその親も、すべてこの島国ニッポンで育ってきて、素晴らしい文化を受け継いで来たのだから、私たち世代も自信を持っていいんだと思う。受け継いできた文化という財産を大切に感じることができれば、留学で手に入れてほしい大切な価値観の一つを手に入れたと思う。

国際社会なんて、一皮むけば「弱肉強食」の非常な世界だ。ビジネスの世界でも実は同じ。外国の人とやり取りすると、偏見や傲慢さを感じる場面も結構ある。でも、どんなときにも最後の砦になるのは、心の中にある「文化」だ。誇りを持とうぜ!ニッポン人。
(^^)v

[1999年11月25日 発行]