コラム

第7話 ご禁制のバイト

日本の大学生は、本業が「学生」なのか、「バイト」なのかわからないけど、アメリカのフルタイムの大学生は、「基本は学業」としっかりしている。ご存知のように「入りやすく、出にくい」システムのため、勉強することが必須になっていることが最大の理由だ。それに、たとえ勉強ができたとしても、出席率が厳しくチェックされるため、試験のときだけ学校に行くなんてことができない。先生やクラスによりけりかもしれないけど、3回休むと成績が一ランク下がる。5回休むと有無も言わさず「落第」となる。さらに、遅刻も減点の対象になるから、気を抜いていると大変だ。

中にはアルバイトをしている学生ももちろんいるが、きちんと学校には行っている。ほとんどの学生は、夏休みにバイトをしてそのお金を使って学費を捻出したりしているから、親のすねをかじるばかりの日本人学生より、よっぽど自立している。

さて、留学生の場合、アメリカは基本的にアルバイトを許可していない。許しているのは、大学の構内の仕事だけで、時給もそんなに良いわけじゃないし、それに働いていい時間が限られているから、それで生活費をつくることはほとんど不可能。小遣い程度しか稼げない。

でも、仕事なんていくらでも、なんとでもなるもの、親にばかり頼んでいられない人は、町に出て仕事を探してみよう。それこそ、コンピュータの技術を元にバイトを探すのもいいだろうし、日本人の家庭を探してその子供の家庭教師をするのもいい。もちろん、お決まりの皿洗いに、ウエーター、職種はいくらでもある。トライすることはいいことだ。(注意:違法であることは事実だから、自己責任ですよ。(^^;))

私の場合はどうだったかというと、夏休みの3ヶ月の間、2年目はロスの御土産やさんの裏方をし、3年目はニューヨークで旅行代理店の御手伝いをした。

当時御世話になった方には本当に頭が下がる。
だって、友達の友達の伝(つて)で、全然つながりもないのに、突然「居候」させてもらったり、相手の返事ももらっていないのに「仕事を探しているので、○○日には御邪魔します…」なんて手紙を送って訪問したりしたのだから、今思えば非常識ったらありゃしない。学生だったから許されたけど、御世話になった方々の寛大なる心使いには本当に、感謝、感謝だ。

さて、それでは普段はどうだったかというと、チャイニーズレストランのウエーターがメインジョブ。転校の章で詳しく書くけど、元々は皿洗いでもさせ貰えればありがたいと思って訪れたレストランのマネージャーが「ウエーターはどうだ?」と言ってくれたおかげでチップの恩恵に預かることになった。世の中、ドアは叩けば開けてもらえるものだ。

でも、収入のほとんどをチップで賄っていくウエーターというバイトは、お客さんに好かれなければ話にならない。英語だってそんなに自信がないのに、アメリカ人の客と会話して、注文をとるなんて、とっても不安だった。第一、メニューの数が半端じゃないから、しばらくの間は夢の中でそのレストランの風景しか出てこなかった。なんせ、百種類くらいのメニューの名前を覚える必要があったし、飲み物もカクテルの名前や、ワインの名前まで知らないといけなかったから、そのプレッシャーったらありゃしない。でも、生活が掛かっているから、真剣だった。

私はお酒を飲まないから、全然カクテルのことを知らなかった。
一度なんてお客さんがレストランについたとたん、こちらが”Hello!”と話す前に、突然、「シンガポールなんとか」と言ってきたので、なんのことやら分からずに、多分シンガポールから今戻ったところなんだ。と勘違いして、”Did you come from Singapore?” と言ったら「きょとん?」とされたことがある。
その女性の顔は今でも忘れられないが、”No,No, Cocktail.”と言われて、意味もわからず、そのまま引き下がりバーテンに”Singapore something. Do you know the drink?”って聞いたのを覚えている。そのとき始めて「シンガポールスリング」なる飲み物が存在することを知ったくらいだから苦労した。

それからは、生活の知恵で、顧客の言っている単語が分からなかったら、そのままカタカタでメモを取って、キッチンに戻って「これ、なんだ?」と聞くことにした。私の生活英語は、学校で学んだのもあるけど、かなりの分アルバイト先で得たものだったような気がする。でも、そういうちょっと「恥ずかしい」思いをしたお客さんって、意外に好意的に思ってくれるせいか、チップも弾んでくれたから嬉しかったね。

さて、アルバイトをするなら、知的アルバイト、もしくはレストランをお勧めする。もちろん、学校の外部でアルバイトをすることは完全に違法だから、すべて自己責任に基づいて行動してほしいけど、よっぽど「ヤバイ」アルバイトでもしない限り、監獄入りや、強制送還なんてことにはならないはずから、人生経験を積み重ねる意味でもアルバイトをすることを勧めたい。私の経験はもう既に「時効」だと勝手に思っているから紹介するけど、あくまで参考に!

さて、「知的アルバイト」とは、将来自分のしたい仕事と関連するような仕事だ。たとえば、理系だったらコンピュータ関連の仕事、ジャーナリズムの関連だったら新聞社や放送局の関連なんかがいいね。目標と目的が明確になっているなら、折角だから「当たって砕けろ!」の精神で、その会社に遊びに行くことから始めよう。見学をしたい!でもいいし、とっても興味があるので、話しがしたい!でもいいから、とにかくアタックしてみよう。始めから、「仕事がしたい」では、相手も身構えてしまうから、まずは君の熱意を示して、仲良くなってからアルバイトの話をしても遅くはない。もしも、「お手伝い」からでも始めることができれば、道が開けてくる可能性も高いはず。

それから、僕のように、とにかく生活するため!っていう、短期的かつ切実な理由でアルバイトを探す場合には、絶対にレストランがお勧めだ。その最大の理由は、食事だ。食べ物屋だから、閉店後には食事にありつける。これは、金額では現せない価値だ。飯が食えるという安心感は何物にも変えられない。それに、貧乏学生だってレストランのオーナーに話して交渉すれば、働かない日でも、閉店のちょっと前に片付けを手伝うだけで、みんなの輪の中に入って食事にありつける。

1980年代のウエーターとしての基本給は一日$5(当時は一ドル260円ほど)だったけど、チップは一日平均$30~$40。週に5日ほど働いていたから、それなりに生活ができた。もちろん、レストランでもいろいろあるから、もっとチップ収入がある店もあるだろうし、ない店もあるだろう。それは運次第だから、そんなに高望みしすぎないように。あくまでも、勉強が主目的の留学なのだから、勉強がおろそかにならないように気を付けよう。(^^)v

[1999年11月18日発行]