第14話 旅行 – 旅立ちの序曲
一年目の冬休みは、私の人生にとって一つのメモリアルだと思っている。
それまでの20年間、どんなに大きな口を叩いても親の保護下にあり、自分一人で決断することなど一度もなかった。しかし、親から離れ一人で異国で生活するようになると、自分で判断し、行動し、責任を取ることが必要になってくる。すると、本当の自分の性格がよくわかってくるものだ。
私の場合は、かなり臆病者だったと感じる。どうしても、保身に走りがちで、未知の物に対して、喜んでチャレンジするなんて出来ない。でも、そんな自分がとてもイヤだから、時々その反発で何かに挑戦したりしているようだ。
だから、振り返って見ると「よく、やったよな~」って感じることが時々あったりする。人間なんて不思議なものだよね。20歳で迎えた留学初めての冬、学校が休みに入るときに、身を守ることから飛びだし、無謀にも貧乏一人旅にチャレンジすることになった。
冬休みは大体一ヶ月ある。
12月はまるまるお休み。その間、留学生は日本に帰る人を除いては、寮に残るか、友達の家に居候させてもらうかするのが一般的。私の場合は、残念ながら冬休みになる前までに、居候させてくれそうな友達も出来ず、そのまま学校の寮に残って時間をつぶすしかない状況だった。
でも、寮に居たって話し相手がいるわけでもなし、勉強するわけでなし、食事だって歩いて20分ほど先にハンバーガー屋があることを除いては、レストランなんて何もない。不便な生活になることが目に見えていた。寮にいても無料じゃないし、食事だってすべて外食に頼っていたら、それこそ何もしなくても、お金はどんどん飛んでいってしまう。そう考えたら、寮の滞在費をバス代にあてて、食費をケチってアメリカを体験する一人旅にでも出ようかと思っても不思議じゃない。
でも、ほとんど予算がない。
なんせ私の両親は、自分たちの生活を切り詰めるだけ切り詰めて、私を留学に出してくれたのだから、無理は言えない。結局、寮にいてかかる生活費ににちょっとプラスする程度の予算しか組めない。ヒッチハイクをしていくことも考えたが、さすがにそこまでの勇気はなく、グレーハウンドのバス定期を購入することにした。
最近は、「進め電波少年」の影響で、無謀にもヒッチハイクだけで、ほとんどお金を使わずに、人のお世話になるばかりの旅行をする人が増えたらしいと雑誌で読んだことがあるけど、そんな旅行はあまり進めたくない。だって、どれだけ多くの人がヒッチハイク中に誘拐されて帰らぬ人になっていることか、….。この旅行中に私も一度だけ、ヒッチハイクをしたけど、やっぱり一人では危険だと思う。
ましてや、人にお世話になるってことは、人に恩を返す気持ちがなければ絶対にしてはいけないんじゃないかと思っている。マ~、私の主観だけど。さて、話を元に戻しましょう。
そのバスの定期は、アメリカ全土一ヶ月好きなだけ旅行できるものだ。それを使って、宿泊施設を利用しないように、なるべく夜は夜行バスを活用してバスの中で寝る計画を立てた。でも、それをしても食費は一日$10だけ。なんとも、財布の中は心細い限りだった。
さて行き先だが、1ヶ月でアメリカ大陸を横断することも考えたが、やっぱり、一度はニューヨークへ行ってみたい!とばかり、ロマンチックなクリスマス時期のニューヨークへと旅立つことに決めた。
しかし、真冬のニューヨークに長期滞在することも予算的にまったく出来ない。そこで、私のいたジョージア州から、テネシー州経由で一路ニューヨークへ、そして、数日ニューヨークへ滞在した後に、南下してアメリカ最南端のキーウエストへ行く、アメリカ大陸縦断とすることにした。
ニューヨークの滞在先は、もちろん貧乏旅行の友「ユースホステル」。
さすがに冬のニューヨークは寒く、野宿をして凍死するのもいやだったから、南下する際のお金を少し先食いすることにした。あと、今までけちけちしてためた小遣いを予備として持って行くことにした。といっても、$120くらいしか予備はなかったけどね。(f^^;)
でも、心はバスの定期を買いに行く直前まで揺れていた。
お金だってあまり持っていないし、英語もろくすっぽ話せない、危険だってたくさんあるに違いない。そう考えると、やはり「怖かった」。本当に怖かった。このまま寮に残っても絶対につまらない冬休みになることは確実なのに、「何もしなければ危険も不安もない」っていう誘惑にもかられ、暗い顔をしながら悩んでいた。(優柔不断だよね…)
どうしよう、どうしよう、と悩んでいるときに、友達に計画を話してみた。
そして、その女性の一言が私の行動を決めた。「若いときにしか、貧乏旅行ってできないよ。」そうなんだよね、年取ってからじゃ、こんな無謀な計画は立てられない。それに、貧乏だから見えてくるものもあるって思ったら、私の行動は決まった。
出発する!
彼女と話したその日のうちに、学校の寮から20分ほど歩いたところにあるバス会社のオフィースに、1ヶ月の定期を買いにいく自分があった。冬の夕日を背中に受けながら、行くんだ、行くんだ!と自分に言い聞かせながら、落ち葉を踏みしめて歩いたのを鮮明に覚えている。(^^)v
[2000年1月6日発行]