コラム

第36話 成田空港にて

君も、卒業証書を手にして帰国の途につく日が必ずくる。最近は、旅費も安くなってきたから、夏休みや冬休みごとに帰国することも可能になっているけど、私はあまり頻繁に帰国することを勧めない。

だって、折角学生ビザを取得して長期滞在を許されていて、何をしてもいい時間たっぷりがあるのだから、(貧乏?)旅行に出るとか、現地で知り合った友達の家に居候するとかして過ごす方がどれだけ多くのことを経験でき、学べるか分からないからだ。親に顔を見せたい気持ちはわかるが、今はインターネットの時代。電子メールでやり取りすることも出来るし、カメラをつければ顔を見せるなんて毎日だってできる。だから、帰国するお金があるなら是非それを使って「貧乏旅行」をしてもらいたい。そう、貧乏旅行なんて若いときにしかできないんだからね。

貧乏旅行をすると、自然に自己防衛の仕方も身につくし、お金のありがたさ、食べ物のありがたさが身にしみてわかる。それに空腹や肉体的疲れ、孤独感や、人のぬくもり、等々、家にこもっていては知ることのできない「大切な感性」をしっかりつかむことができる。是非是非、自分の可能性を信じてトライしてもらいたい。(無理して危険なことをしろとは言っていないので、勘違いしないでね。(f^^;))

英語はあくまでコミュニケーションのツールだから、そんなものだけのために海外に行って来たなんてけして帰国時に言わないでほしい。人生なんて何が起こるかわからない。日本にいたって安全で幸せな人生を送れる保証があるわけじゃない。突然の事故に遭うかも知れないし、餅をのどに詰めらせて死んでしまうかもしれない。

コントロールできない、そして予期できない出来事をちっちゃな頭で思い悩んでいたって仕方がない。ならば、自分の想ったような人生を作りあげる努力をしようじゃないか。信じるものは自分しかないんだからね。正直言って、卒業は目標の一つでしかない。だから仮に卒業しなくても、それも自分の判断だ。自分で留学することを決めたのだから、もちろん辞めることも自分の意思で行えばいい。しかし、自分で自分に言い訳だけはしないことだ。そして、自分から逃げることだけはしないでほしい。

勉強についていけなかったから、それはそれでいい。
でも、前向きに新しい目標を目指す気持ちもなく、目の前の現実から逃げ出すのは、「脱落者」だ。世の中には、大学の価値観への違いからスピンアウトする人間はたくさんいるし、その中には目を見張るほどの成功を収めている人だってたくさんいる。その人たちはけして「脱落者」ではない。自分で自分の進む道を選ぶことのできるパスファインダーだ。帰国するときに、君が卒業証書を握り締めているかどうかは分からない。でも、必ず何かは掴んできてほしい。それは、人が評価するものではなく、自分で評価できればいいのだから、自信を持って次のステップに進んでほしい。….そう思う。

さてさて、本題。
4年のアメリカ留学から戻ってきたときの私の成田での第一印象についてだ。それは何だったと思いますか?大韓航空の格安チケットを使って帰って来た私は、成田の第一ターミナルに到着し、「ア~日本だ!」と感激していました。口元はほころび、帰ってこれた喜びと、親元へ帰って来た安心感で、顔の筋肉は緩みっぱなし。(^^;)

しかし、反面、飛行場のロビーへ向い降りる階段をゆっくりと進んで行った私は、何か違和感を感じていました。それが私の第一印象です。それは、「真っ黒」だ!と言うことです!(f^^;)

エッ?と思われるかもしれませんが、成田の飛行場についてロビーの階段の上から下を見下ろしてみると、一番多い色は「黒」。何の色か想像がつきますか?それは髪の毛の色です。一色、黒一色。たくさんの人でごった返しているロビー、ず~と日本で住んでいれば、当たり前の光景で気にもとめないようなことなのだが、金髪や白髪、茶髪の色とりどりの中で生活していたからだろうか、黒一色だけの世界にとても戸惑ってしまった。(最近は、ガン黒&金髪娘が横行しているからそんなことはないのかもしないけど、10年前は違ってました(^^;)

ア~、日本だ~。とそのとき思ったよね。
それと同時に、ちょっと怖い気がした。何か日本の象徴を見ている気がしたからだ。みんながみんな「同じ」が当たり前だとすると、ちょっとでも違ったものがあったらそれは気に掛かる。

だから、とても怖いと感じた。

特に会社に入ってから、その直感が当たっていたことを「思い知る」のだけど、早く日本にもオープンな包容力のある文化が育ってほしいと思う。「出る釘は打たれる」。さらに、村八分。会社に入ってから、陰口をきかれるときは「奴はアメリカンだから」だった。特に気には掛けなかったが、それが現実の社会。何をやっても、失敗したら「やっぱりね~」。成功しても「あいつは態度がでかくて気に食わない」。…だからね。

責任の所在を明確にしない今の日本の組織は、言われたことだけを忠実に行う人間が好まれる。それ以外のことは、まだ受け入れれる土壌が出来あがっていない。だから、自分をしっかり持つしかない。絶対につぶれないと言われた銀行でさえ倒産する世の中なのだから、どんなことがあったも大丈夫!と思える自分を作り上げる努力が大切だ。

少なくとも、大学生活を海外で過ごした留学生はそれを持つ能力が備わっていると思うから、私も同じだけど、一緒に頑張ろうね!!そんじゃ!(^^)

[2000年6月15日発行]