コラム

第50話 パトカーに囲まれる!

言わずもがなだが、アメリカはめちゃくちゃ広い。
以前,リヤカーを引っ張ってアメリカを横断した人のことを聞いたことがあるが、生半可な根性では成功しない。私もアメリカを車で縦断したことはあったが、イヤになるほど長距離だった。

でも、素晴らしいことに、アメリカのハイウエーは完璧なまでに整備されている。これだけ広大な土地に、よくもマ~作ったものだと感心させられる。

以前このメールマガジンでも紹介した気もするが、アメリカのハイウエーは非常に分かりやすい。たとえば、ハイウエーの番号が奇数なら、かならず南北をつなぐ道だし、偶数は東西をつないでいる。
だから、完璧に逆方向にでも走っていなければ、少なくとも方向としては間違いがない。

それに、日本と違い基本的には無料なので、ガソリン代さえあればどこまででも進むことができる。日本より遥かに長距離のハイウエーを維持するには相当のお金がかかるにも係らず、片や無料、片や有料で、その上道路公団は大赤字というのだから、一体この国の財政はどうなっているのか?

さて、ハイウエーもすばらしいが、アメリカの一般道も結構趣きがあって私は好きだ。イギリスに滞在していたときにドライブして見た田園風景にはかなわないが、アメリカの場合は手付かずの大自然の中を突き進むといった感じで、自然のままのところが素晴らしい。

自然と言えば、昔英語でお手洗いに行く時に「自然が呼んでいる」と言うと良いと教わったことがあるが、あれは何というんだったか?”Nature is calling”だっただろうか?マ~そんなことはどうでもよいのだが、当然長距離の運転となれば、途中腹も空けば、お手洗いにも行きたくなるのが、動物である私たちのサガだ。

日本のように、ちょっと走ればガソリンスタンドや、コンビにがゴロゴロとある環境と違い、アメリカで田舎道を走ったら、行けども行けども何もないなんてことがザラにある。だから、お手洗いに行きたくなったら大変だ。

ある日私は、ジョージア州の田舎道を車で走っていた。眠気覚ましに、コーヒーをがぶ飲みしていた私は、しばらくすると、お手洗いに行きたくなった。とにかく我慢できるまで走ってガソリンスタンドでお手洗いでも借りようと思ったのだが、これがみつからない。

約一時間ほど走ったが結局見つからず、もう限界に達していた私はこりゃ仕方ない!と、車を道端に停めた。辺り一面森の中だったし、人家も全く見えなかったため、マ~誰もいないからいいや!と、エンジンを切る余裕もなく、ズボンのチャックに手を掛けながら、そそくさと草むらに向かって走って行った。

フ~ッ。
この開放感。誰しも一度はこんな経験があるだろうが、我慢していた時間の分だけ、何とも言えない快感がある。

私は、間に合って良かった!と思いながら、草むらの陰から車を盗まれてはいけないと、道の方に目をやっていた。今まで一台も車が走っていなかったのだが、その「最中」に、パトカーがものすごいスピードで走りさったのが見えた。そして、運悪く私はその警官の運転手と目があってしまったのだ。

彼は、草むらにいる私をジーと見つめ、私も彼の顔を追っかけた。

そして、次の瞬間。急ブレーキを踏む音。さらに、Uターンのタイヤがきしむ音が聞こえた。

エッ!?!….私は驚いた。
もしや、警官は私のところに戻ってくるのでは?と思ったからだ。

だがその予感は的中し、拳銃に手を当てた警官が「用をたしている最中」の私の方へやってきた。

こりゃ大変!
手を上げることさえできない。とにかく、途中で止めるわけにもいかず、最後の一滴まで出し終わった後、そそくさとズボンのチャックを引き上げて、警官の方に近寄って行った。

警官は、無線で他のパトカーの連中に連絡を取っているようで、無線特有のあの「ザ~」という音と、相手の声が交互に聞こえる騒がしい音が森の中にコダマしていた。

そして、私に免許書を見せろ。と言った後、車の中を点検して不審なものがないか調べ始めた。もちろん、私は何もやましい物は持っていなかったので、特に問題はなかったのだが、警官は「あそこで何をしていたんだ?」と質問をしてきた。

その職務質問中に、さらに3台のパトカーがかけつけて、計5,6人の警官が私を囲んだ。な、なんで、こんなにものものしいんだ?たかが「たちしょん」くらいで!とは思ったが、図体の大きな叔父さんたちに囲まれ、私はタジタジ。

さすがにこの場で、”Nature is calling”と、自然が呼んでいた。..
などとは言えないので、あそこで用をたしていた。と正直に説明。

すると、お手洗いに何故行かなかったのか?刑務所入りだゾ!と言われた私は、こんなことで刑務所入りだ?とは思いながら、捜したがなかったから…。と追加説明をすると同時に、アホな発言をしてしまった。

『日本では、草むらの中で用を足すことは良くある!…』

警官は、お前何をいっとんじゃ?といった顔をしていたが、荷物に不審なものがないことを確認取った彼らは、これからはもっと奥に行ってやるように!と、優しい(?)アドバイスをして、立ち去って行った。

とにかく、事無きを得た私は車に戻って、先ほど私が用をたしていた場所を振りかえって見た。

掛け込んで行ったときには、草むらのかなり奥に入っていったと思っていたが、実際に落ち付いて見ると、道からあまり離れてなく、すぐ目の前状態であった。さらに、その用をたしていた場所から道側を見ていたときには、自分は草に囲まれていると思えたが、道側から見ると、ほとんど丸見え状態。

つまり、パトカーが通り過ぎていったときに、私からは彼らの顔だけしか見えなかったが、向こうの警官の方からは私の顔だけではなく、「あそこ」も見えたのだ。

…..。フム、なるほど、これなら刑務所行きも理解できる。と妙に納得した私だった。

あれ以来、幸運にも警官に囲まれたことはないが、今度その機会があったとしたら、国賓として護衛されるときだけにしたいものだ。ハハハ….

それにしても、これで刑務所に入れられたらきっと、「露出罪」になったのだろうか?イヤハヤ、もう少しで変態扱いされるところでした。

でも、あの距離から見えるくらいですから、結構自信を持ったりして….。失礼しました~!

そんじゃ!

[2000年9月21日発行]