第61話 マリファナ
年明け早々、なんという話題だ!と怒っている人もいるかと思うが、アメリカを留学先として選んだ人は、必ず一度はこの課題に取り組む必要がある。
見て見ぬふりをするのではなく、前向きに立ち向かってほしいからこそ、年頭のマガジンで取り上げようと思う。
学生寮に住むと「パーティーやろうぜ!」と、よく声を掛けられる。
私たちが「パーティー」をイメージすると、ちょっとオシャレなカッコをして、みんなで集まり、グラス片手に楽しく会話をする場所なのだが、アメリカ人はそういう集まりだけを「パーティー」と呼ぶわけではないらいしい。
パーティーとは、かなりアバウトな意味で、気の合った仲間同士が集まって「楽しい時間を過ごすこと」のようだ。それは「ドンちゃん騒ぎ」さえも含まれる。場所がどこであれ、とにかく若い連中は「楽しむ場」のことをパーティーというようだ。
たぶんそう考えると、夜な夜なコンビの明かりを頼りに、店の前で輪をつくって「座り煙草」をすることも、きっと一種のパーティーなのだろう。(かなり暗いパーティーだが….)
さて、話を元に戻そう。
ある日、「パーティーをしよう!」と呼ばれて行った場所は、誰かの寮の部屋。夜7時ごろだった。まだ私が寮に住んでいたころだから、留学して間もないころだった。
その「パーティー」はメンバー限定のらしく、声を掛けた連中が集まると、部屋のドアを閉め、鍵をしっかり掛ける。そして、何故かドアの下の隙間をバスタオルで塞いでいた。さらに、扇風機を窓から外向きにして回し始めた。
どんなパーティーなのか知らずに訪れた私は、その様子を見るだけで、ちょっと「ヤバイなコリャ!」と感じていた。
アメリカの部屋は日本みたいに、100Wの電球が天井についているなんてことはほとんどなく、間接照明がほどんど。だから、どうしても暗い。それに寮の部屋だから、殺風景で、どことなく地下室での密会の雰囲気が漂う。
さらに、部屋には蛍光塗料の塗ってあるポスター、蛍光灯には青いセロハンらしきものが巻きつけてある。
しかし、誤解しないでほしい、これはごく一般的な大学生の寮の部屋なのだ。けして、「不良の巣窟」ではない。
さて、思い思いに、椅子や、ベット、床に座って、冗談を言い合っている間に、どこからともなく「細いタバコ」が回ってくる。その「手巻きタバコ」らしきものが、「マリファナ」だ。
アメリカのコンビニならどこにでも売っている、タバコを巻く「白い紙」。もちろん、いまどき誰もタバコを葉っぱから自分で巻くなんて人はほとんどいないのだから、その「白い紙」が何の目的で売られているのか、目的は明白だ。
映画で見たことがある人も多いと思うが、その細い一本のマリファナを、一人づつ順番に吸っていく。思いっきり吸い込んで、息を止め、苦しくなるまで我慢する。そして、しばらくして胸いっぱいに吸い込んだ煙を吐き出す。これを何度か繰り返していく間に「HIGH」になっていく。「HIGH」とは、気持ちよく酔っぱらうこと。楽しい気分になることだ。
マリファナは独特の匂いがするので、一度嗅いだらその「かおり」は忘れない。日本でも、たまにその「かおり」を感じることがあるが、日本では完璧に破滅への道に繋がることだから、くれぐれもこの読者は「密輸」なんて考えないようにしてほしい。
一生を棒に振ることになるから!!
そのパーティーに呼ばれるってことは、彼らの仲間に入れてもらったことと同じ意味で、ちょっとした「秘密」を共有した仲間扱いになる。とは言っても、その「秘密」の集団は、あまりにも無数にあるため、特に「契りの杯」で、裏切ったら指一本なくなる…なんてことがあるわけではない。
事前に何をするのか知っている場合は別だが、始めてその場に行くと、日本人のわれわれは、とても戸惑ってしまう。でも、これもアメリカの若者の文化だから、激怒して帰るなんてことは止めよう。その場にいたって、冗談ぽく”No, thank you. I am natural high. (^_^;) “と言えばいいだけだからだ。
よく見ると、他のアメリカ人でも、首を横に振っている人も何人か見える。そのへんは、アメリカ。日本みたいに、先輩達が強引に酒を飲ませる、なんてことは一切ない。吸うも、吸わないも自分の判断だ。
もちろん、健全なパーティーもあるが、寮の中でちょっとした知り合いだけを集めるパーティーはこの手のものばかりだった。
それから、マリファナのことを別名「ジョイント」という。
JOINT、つまりみんなで集まって楽しく過ごすという意味が含まれているらしい。みんなで一本の「ジョイント」を吸って、ワイワイさわぐ。日本のコンパみたいなものだ。
彼らに言わせると、マリファナはとても安いとのこと。
最近の相場は全然知らないが、15年ほど前には一本のマリファナが大体2~3ドル(当時、700円程度)。それで、10人ほどの人が“HIGH”な気分になれるのだから、ビールや酒に比べるととても安上が
りなのだそうだ。
体の大きな連中が集まってビールなんか飲んだりすると、みるみるうちに空き瓶が山になっていく。平気で一人あたり小ビンのビールを1ダースなんて飲んでしまうからだ。
しかし、ご存知のようにアメリカでは、過去アルカポネの時代に「禁酒法」があったくらいだから、マリファナをのさばらせるはずがないのだが、なんでこんなにマリファナが蔓延しているのか?
実はこれには、「理由」があるらしい。
これらは留学当時に、聞いた話なので真偽のほどは定かでないが、なかなか面白い話なのでご紹介したい。
やはり歴史を紐解くと、ニクソンが大統領だったころ法律で取り締まるべく、その「根拠」を明らかにするために医学的に大々的な調査をしたというのだ。マ~政府としては、体に悪いから禁止しよう!と考えた訳だ。
しかし、残念ながら「完全に禁止する」ほどまで、体に害を及ぼさないという結論が出たらしい。そのため、結局州レベルでの規制に留まった経緯があったとのこと。
将来、新たな事実が判明するかもしれないから、そのデータを真に受けるべきかどうかわからないが、当時の調査結果によれば、タバコの方がニコチンやタール等の有害物質を多く含んでおりよっぽど危険だというレポートだったらしい。
結局、一時的な記憶喪失、つまり「さっき何をしていたか」を忘れてしまうことが実験で明らかにされただけとのこと。
それに、タバコやその他の覚せい剤と違い、常習性がないのも特徴らしい。
だから、麻薬の一種であるマリファナは、多くのアメリカ人にとって「ドラッグ」(覚せい剤)という認識が非常に薄いのだ。
それに、州によっては販売は禁止しているものの、個人的に自宅で楽しむ分には構わないなんて法律があると友達が話していたから、そんなに厳しくはないんだろう。当時の話なので定かではないが、ニューヨークやカリフォルニアでは私のいた頃は、公共の場所でさえ吸わなかったら罪にはならない….なんて話を聞いたことがある。(注意:これが事実であるかどうかは私は責任を持てませんからね!)
でも、法律なんてどんどん変わるものだから、友達からそういう話を聞いても、そのまま鵜呑みにしない方がいいだろう。だって「法律の改正が昨日あったので今日からは犯罪です…」。なんて言われて、
警察につかまったらバカらしいからね。
何にしても、事実は、きちんと自分で調べた方がいい。
また、真意の程は定かでないが、警察の倉庫は、毎年どんどん押収されるマリファナを含めた覚せい剤でパンクするはずなのに、何故か「一定」に保たれているとのこと、「どこに行っているんだろうね~…」なんて、アメリカ人の友達が笑っていた。
さて、続いてマリファナの歴史の話をしたい。
起源は、中国だったとのこと。中国では、医療薬として活用され、それがシルクロードでインドに渡った。そして、なんと僧侶たちが瞑想に使ったらしい!
そしてさらにシルクロードでヨーロッパに渡り、また医療薬として使われ、何故か大西洋を渡ってアメリカに来ると、全然違う「目的」の使われ方をしたととのこと。これも一つの歴史なのだろうね。
また、ベトナム戦争のころ、アメリカでヒッピーが流行した。
当時のドキュメンタリー番組なんかで、マリファナを吸ってデモ行進に参加している若者を見たことがある人も多いと思う。
それなりに悩むものがあったのだろう。
ベトナムまで行って戦争をする意味、国家権力に対する反発、それに、戦争へ駆り出される「恐怖」。
現実からの逃避ではあるが、当時の若者たちの苦悩を垣間見ることができる気がする。
それに、戦地ベトナムはご存知のように高温多湿。そんな中、明日をも知れずジャングルでゲリラと戦った兵士達の苦悩は想像に余りある。
マリファナはそんな中さらに広まったらしいから、辛かったんだろうね。
でも、今は戦争中ではない。
この話を読んでいる人は、勉強しに留学に行くのだ。目的を忘れずに!
個人的には、一度くらい経験しても良いと思っているが、これはあくまでも個人の判断。また、常習性がないと言っても、毎日毎日朝から晩まで酒を飲んでいたら、まともな生活が出来ないのと同じように、それに溺れてしまえば、取り返しがつかなくなる。
何度もこのマガジンで書いているが、留学して一人で生活するようになれば、すべてが「自己責任」。しっかり目を見開こう。あとで後悔したり、人に責任を転嫁することは絶対にしないようにね。
自分に負けるな!
これが、21世紀初めの留学生への言葉!
[2001年1月11日発行]