コラム

第21話 旅行 – バスの中

前回は冬のワシントンでの「摩訶不思議」な体験をご紹介しましたが、これからズコ~ンと南下してフロリダへと向かいます。南へ進む前に、今回は大変お世話になった『移動宿泊所』(^^;)での出来事を皆さんにご紹介してみたいと思います。

バスは目的地へ行くまで、何度もあちらこちらのバス停に停まっては新たな人を乗せては降ろします。私は極力ホテル代をセーブするため、バスを移動手段兼、宿泊所として利用していたので、もちろん外の風景は真っ暗。バスの中も各席のところにある小さなライト以外は何もない、本当に暗~い中を進んで行く寝心地の悪い乗り物でした。

その『夜行バス』、たぶん昼の客層とはだいぶ違うんだろうな~と感じた例を二つほどご紹介しましょう。私にとっては夜行バスは「寝床」ですので、本当は静かにずーと朝まで走り続けていてくれるのが一番良いのですが、さすがにそういう訳にはいかず、やはり途中の街々で停まって、乗客の乗り降りがその度に起こりました。ですから、私にとって途中の街は全く興味がなく、バス停に停まって人の出入りのたびに、ただでさえ浅い睡眠が妨げられる「気分の悪いところ」でしかありませんでした。

そう言うわけで、どこで誰が乗ってこようが、降りようが意に介することではありませんでした。だから、『その人たち』が乗ってきたときも、どうでもいいことでした。その人たちとは、バックパッカーの二人組みです。

よれよれのジーンズにTシャツ。私も人のことを言えた義理ではないカッコをしたはいましたが、近寄ったらきっと「臭いぞ!」と思える風貌で、私と同じく大きな荷物を持ってバスの中に入ってきました。

マ~そんな光景はそれこそあちらこちらで見たのですが、その連中、バスの一番後部座席に行ったかと思うと、先に乗っていた見ず知らずのバックパッカーと意気投合したらしく、夜中にも関わらず他人の迷惑を顧みずに大声を上げて話したり笑い声を上げたりしていました。

しかし、しばらくすると突然静かになったのです。
そして、それと同時にバスの後方からある「臭い」がしてきたのです。それは、マリファナ。

アメリカで留学していると自分の意志に関わらずこのドラックは周囲に存在するので、一度別に詳しくご紹介したいとは思いますが、あのマリファナ独特の臭いがしてきたのです。

私は驚きました。
しかし周りの人たちは、関わらない方がいいと考えているようで知らぬ顔をして寝ていました。その臭いがしていたのは、ほんの数分でしたが、こんな場所で吸うなんて….。とアメリカの暗い反面を見たかのような気がしました。

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それから、ある日はこんなことがありました。
おそらく高校生くらいだと思います、黒人の男の子が乗ってきたのです。手荷物は何もなく私の隣りに座ったかと思ったら、そそくさと周囲の状況を観察した後、背中を丸めて椅子に座り込みました。

私は、「こいつ、何遊んでるんだ?」とは思いましたが、特に危害を加えるわけでもないので、そのままにしておきました。大きなバス停では、運転手さんも一度休憩を取りますから、乗客のバスへの乗り込みはノーチェックです。乗客のチケットの確認は、運転手さんが戻ってきてから、各席を回って行います。私は、1ヶ月有効のパスを持っていたので、いつもポケットの奥底にしまってあるパス(なくしてはいけないので、本当に奥底に入れていました)をゴソゴソと出しながら、運転手さんにニッコリ笑ってチェックを受けていました。

そして、その黒人の男の子が乗ったバスでも、恒例のチケット確認を行いに運転手さんが前からやってきました。すると、どうでしょう。その彼、私に向かって人差し指を口の真中に立てて、「シ~!」と言ったかと思ったとたん、さっきよりももっと体を丸め、椅子の足元の部分に入ってしまうくらいに小さくなったのです。

もちろん、それでも背中は見えます。でも、夜中ですから、本当にバスの中も暗いので、そこにある(いる)のが、私の荷物なのか人なのか、ほとんど見分けがつかないのです。

その時点で、私は彼が「無賃乗車」を試みていることに気がつきましたが、心の中で「やれるもんなら、やってみな!」的な気持ちも手伝って、彼の存在をわざわざバスの運転手には伝えないことにしたのです。

前から順にチェックをして運転手は来ました。そしていつものように私もゴソゴソと「パス」取り出して見せ、やはりいつものようにニッコリしました。そして、そのバスの運転手は、私の横の席に目をやりました。….私は、心の中で何が起こるのかちょっとワクワクしていましたが、運転手は、何か丸いものがあることは認識したのですが、特にチェックすることもなく、そのまま後ろの席まで行って、全員の確認が済んだということで、運転し始めたのです。

つまり、黒人の男の子は無賃乗車に成功したのでした。

彼は目的の街に到着したときに、私に小声で”Thank you!”と言って立ち去って行きましたが、これもアメリカの暗い部分だとつくづく感じました。でも、もう一度あのバスでの宿泊を3週間近くしてみろ!と誰かに言われても絶対にしたくないですよね~、本当に疲れますからね。やっぱり、若さっていいですよね~。そんじゃ!(^^;)

[2000年2月24日発行]