第64話 究極のアドバイス
1月の中旬頃、アメリカでインターネットを通じて「養子を仲介する」サービスを利用し、あるアメリカ人が70万円ほどで自分の子供を<<売った>>後、もう一度取り返してその倍の金額で別のイギリス人に<<また売った>>という事件が話題になった。
一種の『人身売買』にしか私には見えないが、どのような事情があったにせよ、自分の子供を他人に売る人の感性は理解しずらい。
さて、今回はこのニュースを見ていて思い出したある驚くべき話をご紹介したいと思う。ちょっと話が鮮烈なので実名は避けたいと思うが、これはうそ偽りのないノンフィクションだ。
始めの大学(LaGrange College)に通っていたとき、ある同級生の女の子と親しくなった。残念ながら、Girl Friendではなかったが食事をしたり、暇なときは買い物に一緒に行ったりした。
それで、自然に彼女の家族ともつきあうようになった。彼女の妹たちとも仲良くなり、さしてまともな英語は話せなかったが、私は身振り手振りでジョークを飛ばし、その家族の人気者になった。
自然、「人畜無害」の私は、その家族の一員扱いをされるまでになり、Thanksgivingの休みなんかは、彼女の家で週末を過ごすくらいになった。非常にオープンな雰囲気で何故かその家のおばさんには「My Son」と呼ばれ結構楽しい時間を過ごせた。
しかし、ご存知のように私は後に転校した。
そのため、その彼女や妹たちとも久しく会えなくなってしまった。
転校後、約半年ぶりに前の大学を訪れたときのこと、その彼女が複雑な顔立ちで私に彼女の妹のことを話してきた。
彼女の妹はまだ高校生。
美人とは言えないまでも、元気な女の子だった。そして、ボーイフレンド(恋人)がいた。しかし、ある日大喧嘩をして分かれてしまったらしい。
彼の方は、「より」を戻したかったらしいが、その子は顔を見るのもいやになったらしく、姉の家にしばらく居候することになった。(ちなみに、その彼女は私が転校してしばらくして結婚をして、大学は中退していた。)
するとすぐに、そこで気に入った男を見つけたらしく、昔の彼氏のことなどさっぱり忘れて、その男と付き合い始めた。
しかし、その恋は淡く、短期間のうちに終わったそうだ。そして実家に戻ると、「やっぱりこの人しかいない」と思ったらしく復縁。…..、とマ~よくある話である。
しかし、ここから話がややこしくなる。
実はその高校生の妹、妊娠していたのだ。
姉のところに居候していたときの男の子供らしいのだが、その事実に気がついたのは前の彼氏とよりを戻したとき。
さすがの彼女も悩んだらしく、まさか別れていたほんの短い期間に他の男と関係を持って子供を身ごもったとは言えなかった。
彼女の妊娠を知った元々の彼氏は、おなかの子を自分の子だと信じてしまった。そのため、今まで彼女に冷たくしたことを詫び、彼は、産まれてくる赤ん坊と三人で幸せな家庭を築きたいと言い出したのだ。
どうすべきか?!
このまま、偽って家庭を築くか。それとも、本当のことを言ってまた別れるか。はたまた、本当の父親のところに行ってその男と結婚するか。…いろいろと悩んだらしい。
いずれにせよ、彼女はまだ10代。
日本なら、「中絶」も考えの一つにあるが、アメリカはクリスチャンの国、それに彼女は敬虔なクリスチャンの家庭に育ったこともあって「中絶」という発想はしなかった。
悩んだ挙句、彼女は自分の姉にどうしたら良いかを相談したそうだ。
姉は、自分のかわいい妹の将来を案じて下記のようなアドバイスをしたそうだ。しかし、これが一般的な日本人にはまったく信じられないような会話だった。
それでは、姉のアドバイスを紹介しよう…
せっかく授かった子供は、産むべきよ。
世の中には、子供が授からずに悩んでいる人がたくさんいるのだから、わがまま言っちゃだめ。生みなさい。
[ここまでは常識的な答え。しかし、ここからが鮮烈!]
そして、生んだら赤ちゃんをほしい人にあげればいいのよ………………………。
私は耳を疑った。
この考え方は、アメリカの一般的な人の考え方なのか、それとも彼女だけ特別なのかは他のアメリカ人に質問したことがないので定かではないが、一般的な日本人にはちょっと考えられないアドバイスだ。
「物」じゃないんだから「子供」は….、と言いたいがあまりにもその鮮烈な言葉に私は言葉をなくしてしまった。
それから数ヶ月、無事にその妹さんは出産。
その後、どうなったのか….。私はあまりにも恐ろしくてその顛末を聞いていない、聞きたくなかった。
しかし、どんな結果であろうと、その赤ちゃんが幸せに育っていることを望んでいる。
それじゃ!
[2001年2月1日発行]