コラム

第78話 お世話になりました(その2)

結局、私は『押しかけ』状態でしたが学校のあった南部のジョージア州から、West Coastのロサンゼルスへと行き、夏休みの間の寝床と、アルバイトを獲得しました。(f^^;)

ちなみに、アルバイトの内容はオレンジの「貝殻虫」取りでした。
貝殻虫ってご存知ですか?オレンジの表面にある窪みに張り付いている、直径1mm程度の茶色の貝殻みたいな虫のことをいいます。虫とは言っても動いたりはしません。単にジ~とそのオレンジに寄生しているのです。話によれば、この貝殻虫がついていると、日本は輸入を許可しないらしく、日本から観光で訪れる人達がカリフォルニアの太陽を浴びたフレッシュなオレンジをダンボール箱でお土産にする際にはその貝殻虫がついていない状態でなければいけない….とのことです。

取り方は簡単で、オレンジを360度ぐるりと見渡し、靴磨きのブラシでその貝殻虫をかき取るだけです。ただ、むやみにオレンジを靴を磨くようにごしごしすると、表面の「バセリン」がはげてしまい、オレンジの表面が萎んでしまうので、適度な『技』が必要になります。残念ながら、私はその技の習得までには行きませんでしたが、その会社の社長さんは見事にサッサとこなしていたのを覚えています。

アルバイトをさせてもらって、文句は言えないのですが、毎日、毎日事務所の倉庫で一人黙々とFMラジオを聞きながらオレンジのダンボール箱と奮闘するのは、結構かったるかったです。一応、働いて手に入れたお金は、親に仕送りしてもらったお金とは違い、比較的気楽に使えたので、学校に戻ってから数ヶ月は普段よりちょっと大目にお小遣いが使え、嬉しかったです。

さて続いて、翌年Junior(大学3年生)になる前の夏休みのお話です。

数回前のメルマガに、両親が私に会いにアメリカまで来たことを書きましたが、その際に観光を兼ねてニューヨークへと足を伸ばしました。たまたま、父親が働いていた会社の社長がアメリカに系列会社を持っていたため、その方にお会いする目的も父としてはあったようです。

ニューヨークでは、その方の案内でマンハッタンを一日観光させて頂きました。私が留学中であることを知って、その方は名刺をくれ、「何かあったら連絡を下さい」と親切に言葉を掛けて下さいました。

両親が帰国してから、私はその名刺の住所宛に丁寧なお礼状を書きました。すると、しばらくしてから、その方からご返事があり「ニューヨークへ来ることがあったら、私は退職するので、息子のやっている会社の方に連絡をしなさい....」と息子さんの会社の名刺を同封して頂きました。旅行代理店の社長さんをやられていました。

一般的に、『何かあったら連絡を….』なんて言葉は一種の「御挨拶」みたいなもので、通常誰も連絡をしないと思うのですが、学生の私はその『言葉』をそのまままともに受取りました。(^^;)

その手紙を頂いてから、ちょうど一年後、私はその方に手紙を書きました。

中身は、この手紙が着く頃には、ニューヨークへたどり着いている頃なので、宜しくお願いしますという内容.....。(^^;)

今考えてみれば、どうしようもない手紙であります。(f^^;)
一応、懇切丁寧に文章を書きましたが、相手の立場や状況も考えず、一度あっただけの人に「これから行くので待ってろ!」と言ってるのと同じですからね….。

当時運転していた1200ccの中古のカローラを飛ばして、私は一路ジョージアからニューヨークへと突っ走って行きました。何時間運転したのかあまり記憶にありませんが、朝早く出発して、夜中に到着できるくらいだったと思います。私が知っている相手の住所は、名刺に載っている会社だけです。ですから、夜中に行っても誰もいません。そのため、マンハッタンの夜景が見える直前の住宅街に車を停めて、一夜車で過ごしました。

翌朝6時ごろその住宅街を出発し、摩天楼の輝くマンハッタンを目指しました。とにかく、ニューヨークなんて大都会を車で走るなんて経験がなかったので、恐る恐るニュージャージーの海底トンネルをくぐりました。グレーハウンドのバス停の横をゆっくり進みながら、周りを見回したとき、路上で寝ている浮浪者(ホームレス)を何人か見かけたのが、非常に強く私の印象として残っています。

ちなみに、私は浮浪者の人達を見るときに、自分と何が違うのか?と自問します。怠惰な自分と何が違うのかと考えると、確かに「今」は働いているが、いつ同じ境遇に陥ってしまうか分からない。不安な気持ちになるのと同時に「凛としなくては!」と思ったりします。

さてさて、その人の名刺を片手にマンハッタンの五番街を進みました。
近くまで来たことを確認して車を立体駐車場に停め、一路巨大なオフィースビルの中へ。昨日からの運転でクラクラしていましたが、その事務所(旅行代理店)の扉を叩きました。
<続く>

それじゃ、また!

[2001年12月6日発行]