コラム

第80話 お世話になりました(その4)

…と、言うわけでその瞬間から、約2ヵ月半私は『押しかけ女房』ならぬ『押しかけ留学生』となりました。(^^;)

社長さんは準備良く、自宅からマットレスを持ってきてくれ、早速リビングの窓際にセット。その晩からお世話になりました。

その方は、たしか当時40歳で独身の方でした。(….そう言えば現在の私の年齢と同じだ!(^^;))とてもユウモアのある方で、私のことを「しまちゃん」と親しみを込めて呼んでくれました。

また、とてもチャレンジングな方で、今まで勤めていた会社を辞めて、アメリカにある商社に移り、楽しそうに仕事をしていました。それから、その方には彼女がおりまして、私も何度か食事に誘ってもらったり、(私の寝床のある)リビングに遊びに来てもらったりして(f^^;)、楽しくお付き合いをさせてもらいました。

しかし、考えてみれば、私が転がり込んだおかげで、彼は彼女とデートするにしても家には、「居候その1」の私がいたわけですからさぞかし、不愉快だったのではないかと、今になって思うとやっぱり反省であります….。(++)

その部屋は4階にありました。
アパート全体はかなり古く、多分数十年は経っていると思われます。それでも中はそれなりにきちんとしていて、アメリカの繁栄が百年近く続いていることを物語っている気がしました。

4階ともなれば、道に面した窓の外から泥棒は入ってこれません。
エアコンはなかったのですが、一日中窓を開けておくことができ、結構風が流れ快適でした。窓には網戸はなかったのですが、ニューヨークという気候上ほとんど蚊がいないようで、夜寝ている間にあ
の「プ~ン、…、プ~ン」といった音に悩まされることもありませんでした。

しかし、さすがに夏の夜はとても暑く、いくら窓を開けていても暑さのあまり寝苦しい夜を何度か過ごしたものです。

また、一度なんか大雨に襲われ、窓際においておいたコンサイスの和英と英和がセットになった辞書がびしょぬれ。そのお蔭で辞書の厚さが倍近くにも膨れ上がってしまい、いまだにその辞書を使っていますが、よく人に「やっぱり、よく勉強したんだね~」とお褒めの言葉を貰ったりします….。苦笑いするしかないですが..(f^^;)。

さて、実はそのアパートである事件が発生したのです。

ある日のこと、バイト先から戻ると台所が汚れていました。
テーブルの上に、ナッツの入っていた缶がひっくり返り、ナッツがいたるところに散乱していたのです。私は、きっと私を居候させくれる彼が出かける前にでも、急いでいて缶をひっくり返したのだろ
うと思いました。そして私は、特に悪い気もせずに、台所を掃除しておきました。

もちろん、居候をさせてもらっている私は「彼のために掃除をしてあげた…」なんて思うわけもなく、彼に何も言わずにおりました。

しかし、….です。

翌日、帰宅すると再び台所のテーブルの上が散乱していたのです。
それも、昨日より散乱のエリアが広がっていました。缶は下に転がり、その上タッパでできている蓋はボロボロになっていたのです。

これは、何か変です!

私は、泥棒か?…と思い、台所にあった包丁を片手に、威嚇するように、怒鳴りながら、一つづつ部屋を確認しました。窓が開いているため、カーテンがゆらゆらしており、とても怖かったのですが、武者
震いしながらリビング、ベットルーム、そしてシャワールームと確認をしました。

しかし、誰もいません。
それに、特に荒らされている様子もありません。台所だけが荒らされていたのです。

誰もいないことを確認した後、私は再び台所に戻りました。
す、するとです!先ほどは気がつかなかったのですが、そこに犯人は潜んでいたのです!!!

私と目と目が合った犯人は、急いで窓から逃亡を図りました。私は、散乱した台所をまたぎながら窓に向かいました。そして窓から外を見ると、犯人は壁にへばりつきながら必死になって逃走をしようとしていました。

鋭く爪を立て、時折バランスを崩しかけながら、ブロック作りの4階の壁を斜めに進んでいきます。

さすがに私はそこまで追いかける勇気はありません。諦めましたが、
荒く肩で息をしていました。

……。

っと、「太陽にほえろ!」並みの逃走劇を演じてみましたが、ハハハッ実は大したことはありません。(^^;)

鋭く爪を立てて逃走した犯人は、なんと「リス」だったのです。(f^^;)

リスと言っても、「島リス」のように可愛いものではなく、ドブねずみにリスの尻尾をつけたような尻尾を含むと体調50cmはあるとうい大きなものです。

アメリカではリスなんてそこら中にいるので、留学して数年も過ぎた私は、リスそれ自体には驚きませんでしたが、なんせニューヨークのクイーンズ、森なんて近くにはありません。それにも関わらずこうやって、人家の台所から食物を獲得しながら生き延びている生命力に関心したりしたものでした。

私は、昨日から起こったことを、お世話になっている方にお話して、その夜は結構その話で盛り上がりました。そして「それじゃ、窓の外に餌でも置いて『餌付け』でもしようか!….という話にまでなりました。

しかし、この愉快な男二人の計画は、彼の彼女の一言によりなくなってしまいました。

彼女曰く「リスって、見かけは可愛いけど、ねずみと同じであちこちを歩くから、たくさん病原菌を抱えているだからね、危ないわよ!」…。

フムフム、納得!
確かに尻尾を細長くすると本当に「ドブねずみ」なので、私とお世話になった方は納得しました。

ちなみに、リスも驚いたのでしょう、あれ以来台所が荒らされることはありませんでした。
<続く>

それじゃ、また!

​[2001年12月20日発行]