第83話 お世話になりました(その7)
前回は私の恥部を見せてしまった話でしたが、この話には後日談があります。
当時、私の通っていた大学に、日本から短期留学をしに来た友人がおりました。当初私は転校前に縛られていた「日本人とのしがらみ」を避けるため彼と距離をおいていたのですが、日本人同士のネチョネチョした関係を彼も嫌っていたこともあり、危惧した関係にはならず、大人の友人付き合いができました。
私がニューヨークへ行っている夏休みの間、彼も一年間の留学を終えて日本に帰国することになっていました。私はニューヨークへの出発前、心を許している彼に今回の出来事を話したのです。
….私はかなり落ち込んでいました。
すると彼は「悪気があったわけじゃないんだから仕方ない….」と慰めてくれ、おもむろにこんな話をしてくれたのです。
でも、お金をもらったんだから何か土産でも買って帰らないといけないだろう。日本に帰ったのだから何か『日本の土産』がいるな~….。
と、言ってしばらく間を置き、
俺はもうすぐに帰国するから(俺が)日本から持ってきた日本らしい民芸品をあげるよ。
….と、彼が留学する際にお土産として大目に持ってきた和紙でできた人形やら、小物をたくさん私にくれたのです。
私は、友人の思いやりにとても感謝しました。
ニューヨークから帰ってきた私は、9月からの学期が始まる前にそのレストランに『日本から帰ってきました』と言って挨拶しに行きました。父の具合が悪いと嘘を言って帰ったので、「とりあえず元気になったから….」と説明し、またアルバイトをさせてもらえるようにお願いしたのです。レストランの人たちは喜んで私の帰りを迎えてくれ、早速元通り働けるようになりました。
そして、友人からもらった『日本のお土産』をお餞別をもらった人たちに感謝を込めて渡しました。
それで、すべてが円く納まるはずでした….。
しかし、そうは問屋が卸さないのが世の中です。神様は見ていたのでしょう。
大学のカフェテリアで、夏休み中ニューヨークへ行っていたことをアメリカ人の友人に話していたところを、たまたま後ろに座っていた女の子に聞かれてしまったのです。
なんとも運悪く、その彼女は同じレストランでバイトをしている韓国からの留学生だったのです。
やばい!!!
私は、彼女の顔を見た瞬間、すべての嘘がバレたと思いました。
そして、その晩のバイトですべてが暴かれてしまうと感じました。
私はかなり狼狽しましたが、これも「実から出た錆」元はと言えばすべて私が悪いのですから、『ばれてしまったらすべてを話して謝ろう』と心に決め、夕方いつもの時間に、恐る恐るレストランに出勤しました。
そこには、昼間私の話を聞いていた韓国の女の子もいました。
彼女は他のウエートレスに、なにやらハングル語で話していました。
私は内容を理解することはできませんでしたが、ところどころに私の「シマ」というニックネームが出ていたと思うので、きっと昼間聞いた事を話していたのだと思います。
私は、戦々恐々としていました。
咎められてしまう…..。
もちろん、私のしたこと自体言い訳がきかないことだったので、何も弁解の余地はありません。私は、なるべく平静を装っていましたが、裁きの瞬間が来るのをビクビクしながら待ちました。
しかし、….です。
それから何も起こらなかったのです!?!
当然、私は疑われたと思います。しかし、お店に人たちは特に私のことを咎めることなく今まで通りにつきあってくれたのです。
彼女たちが何を思っていたのかわかりません。もしかしたら、私が思っているような話には発展しなかったのかもしれません。でも、とても寛大な対応をしてくれたのだと思います。
最近、私自身他人の愚行に対して怒りを直接ぶつけたり、すぐに腹を立てたりしていますが、今こうやって書いていながら、自分の若かりしころの愚かさに対して寛大に接してくれた人たちのことを思うと、反省しなくてはならないと思ったりしています。
それじゃ、また!
[2002年2月1日発行]